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7-5 ただ、それだけ

 挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


 ヒュウガの過去から、現実に戻ってくる。

 2人は校庭の真ん中で、魔力を押し込み合いながら向かい合っていた。


「その時、俺は決めたんだ! 全部ッ! 全部ッ!! 取り戻してやるってなぁッ!!」


 すると、グッとヒュウガの黒い魔力がカロの魔力を押し返す。


「だから、カロッ! 俺のやり直しのために、死ねえッ!!」


 そして、黒の魔力が完全にカロの中に入り込む。――――その時だった。


「……んなもん、知るか」


 ピタリ――――カロの体の寸前で、黒の魔力が時間を止められたかのように停止する。


「こちとら、今を生きてんだよ……。過去がどうとか、愛がどうとか――――」


 そして、カロがカット前を向いた次の瞬間、


「――――どうだっていいわッ!!」


 グッとカロの紫の魔力が捻じれて、それからもの凄い力でヒュウガの魔力を押し返し始めた。


「な、なんだッ! この力、どこから!!」


「これは、俺の全てだ……! 俺の今だ……!!  俺は、ただあいつとの約束を果たす!! 過去なんかに負けねえッ!! 戻る気もねえッ!! 俺が俺であること!! いま目の前にある、いまここに生きてる、俺の全てだ!!」


「カロッ……!!」


 その得体のしれない力に目を丸くしながらも、ヒュウガはキッと向き直ると、


「……俺だって、この愛が全てなんだ!!」


 そう言って、全力で魔力を押し込む。


「俺は、俺は……!」


 苦虫を噛み潰したように顔が歪んて行くヒュウガを、カロはただ一心に睨む。


「――――っぐ、あぁあああああッ!!」


「――――ぅ、らぁあああああああッ!!」


 そうして互いの魔力が共鳴すると、辺りはまばゆい光に包まれた。




   ▼ ▼ ▼ ▼




「俺は、やり直したかっただけなんだ……。全部を……」


 校庭に膝をついたのは――――ヒュウガだった。


 それを、カロは抱き止めるように支える。すると、ヒュウガはその耳元で呟いた。


「……カロ。お前には、人生には、今後いくつも選択肢がやってくる。その度に、いちいち正しい選択なんてできやしないんだ。正解かどうか、分からない選択肢だってある。そんな時、やり直したいって思う時がお前にだって――――」


 しかし、カロはそれにあっけらかんとした態度で、


「――――何言ってるか、分かんねえよ。こっちは鼓膜破けてんだ」


 と、返すと、ヒュウガは微かに唇を動かして、


「……俺は、お前が嫌いだ」


 と、言った。


 それから、1羽のカラスアゲハが松永の背中から飛び出る。――――と、そのカラスアゲハは青空へと向かって羽ばき、やがて太陽の中でサラサラと塵になって立ち消えた。


「……何言ってるか、分かんなかったけど。けど、どんなに御託を並べても、周りを不幸にして誰かに恨まれるようなことをして、それで何かを手に入れようとした。そんな人間は絶対に報われないよ。だから俺は、今の、この自分を抱えて生きていくよ。ヒュウガさん」


 ふと、欠けた左腕を見る。これも、自分の選択の結果だ。

 左腕より、叔父を倒すことを選び取った自分の。

 断面からは、体の中に張り巡らされていた糸魔術が傷口を縫合し止めていた。


 それでも、元の左腕が自分の体に戻ることはないだろう。


 すると、そこへ赤木がやってきて、カロに向かってドサッとシズクを投げつけた。


「……シズク」


 カロはシズクを受け止めると、悲しそうな顔をする。そして、強く抱きしめて、


「……そうか。お前も帰らなくちゃいけない存在だったんだよな……。ヒュウガさんを倒しちまって、魔力供給が途切れて……」


 と、涙を流した。そう、これも自分の選択の結果だった。


 が、直後――――カロは赤木にスパァンッと頭を叩かれる。


「――――!?」


 カロが思わず顔を上げると、目の前で赤木が必死に何かを訴えながら身振り手振りで伝えようとしていた。


「なんだよ、こっちは感動の別れを……」


 それは悲しさか叩かれた痛みか、ポロポロと涙を流しながら文句を言う、カロ。


 しかし、次の瞬間、カロは自分の目を疑った。


「まに、あう。そめろ。こ、あ……」


 希望的観測かもしれないが、カロの目には赤木の唇の動きがそう動いたようにしか見えなかった。――――ならば、躊躇う余地などない。


 カロはシズクをそっと地面に置くと、ひび割れた胸から覗く黒く染まったコアに触れ、自身の魔力を流し込む。魔力切れの心配だとか、腕の痛みだとか、そんなのは関係なかった。


 黒いコアは、一向に色を変えない。


 カロの紫の魔力を吸っても、墨汁の中に色を薄めた絵の具を垂らし続けているようで、立ち消えてしまう。


 俯く、カロ。涙が、シズクのコアに落ちていく。――――と、そんな時だった。

 

 カロの目の端に、宙に浮く蜘蛛の糸のようなものがチラついた。

 すると、その透明な糸を辿るように、自身の注ぎ込んでいる紫色の魔力が空へと昇っていく。


 その先にあったのは、凧のようにか細い糸でシズクのコアと繋がれながらふわふわと風に漂う――――真っ白な霊魂だった。

 

 やがて、霊魂に自分の魔力が届く。と、霊魂はコルク栓を抜いたときのようなスポッという軽い音を上げ、寝そべっているシズクのコアに引き戻された。


 そして、さっきまでの澱みが嘘かのように一瞬でコアが紫色に染まると、もう魔力供給は十分と言うようにあたりに紫色の魔力が溢れた。


「シ、シズク……?」


 カロはどうすればいいか分からなくて、とりあえず声をかける。――――と、シズクはぱちくりと目を覚まし、それから機械的に上半身だけを起こしてカロの方を見た。


「え、えっと……」


 絶望と希望の中を転がされて、どんな言葉をかけるべきか思いつかない、カロ。


 しかし、その答えは――――シズクが教えてくれた。


「おわっ――――」


 次の瞬間、シズクはカロに飛びつく。と、カロとシズクはそのまま校庭に共倒れになった。


「お前……! 危な……」


 カロは、いつものようにシズクに愚痴を漏らそうとする。

 が、その顔を見ると、何も言えなくなってしまった。


 心に暖かな感情が溢れてくる。


 そう、再会に言葉などなくていい。ただ、抱きしめれば良かったのだ。 


「おかえり、シズク」


 カロも、素直にシズクを抱きしめ返した。


 そんな様子を遠くで見ていた、赤木。

 赤木はその光景を見るとため息を吐いて、それから、


《任務完了。脅威は消滅しました》


 と、メッセージを送信した。

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