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6-6 その糸、辿るべからず

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


「……お前を事故に巻き込んで怪我を負わせたのは、俺なんだ。ついでにお前の親も、俺が殺した」


「は? 何言って……」


「――――《爆花爆々(ばっかばくばく)》」


 しかし、赤木の呟きがカロとヒュウガの間に割って入ると、次いで隕石のように火を纏った校舎の瓦礫がヒュウガに向かって飛んできた。


 赤木のハンマーによって打ち上げられたそれを、ヒュウガは飛び退いて瓦礫群から難なく逃れる。


 しかし、そこへ続けて、滑車のようにくるくると縦に回りながら、ハンマーを携えた赤木が放物線を描いて襲いかかった。


 ズドンッ――――重たい一撃がヒュウガの両腕を襲う。


 すると、ヒュウガの足は地面から離れなかったものの、それを受け止めたヒュウガは校庭に電車道のような跡をつけながら10数メートルほど押し飛ばされた。


「あくまで《支配》が”人の魂に干渉する”だけなら、無機物の影は操れない。……それに空中からやってきたあたしの影は、あたしを引き留めるには遠すぎる」


「……本当、頭だけはいいな」


 赤木とヒュウガが睨み合う。と、そこへ、カロがいまいち緊張感のない声で割り込む。


「ちょ、ちょっと、待て……! 俺はまだ、ヒュウガさんに聞かなくちゃいけないことが……!!」


 しかし、赤木はそんなカロを突き放すように、


「知るか。私は、あいつが殺せればそれでいい」


 と、冷たく言い捨てて、強く地面に十字架を打ちつけた。――――そして、次の瞬間。


「……ッ、ぅうううううううううううううらぁッ!!」


 と、そのハンマーを逆手で持って振り上げる。

 すると、校庭の白砂は畳のようにひと塊となって、ヒュウガに向かって飛んでいった。


 それから赤木はジャンプすると、白砂を盾(けん)足場代わりにしてその上に乗る。

 飛ばされた白砂の塊は、大きなスノーボードのようになってヒュウガから赤木を隠していた。


「……馬鹿の1つ覚えが」


 一方で、ヒュウガはそれをその場から動かず眺める。と、その目の前では、宙に浮いている魔術書《支配(ヴァ―テル)》がパラパラパラッと音を立ててめくれていった。


 そして、とあるページでピタッと止まる。


 ヒュウガはそれを一瞥すると、スッと左手を掲げ、


「《断末魔(アムスタムナド)》」


 と、口にした。


 次の瞬間――――魔導書から霊魂のようなものがいくつか飛び出す。


 そして、それはヒュウガの左腕に取り込まれた。


 芋虫のように醜くボコボコと膨れ上がった左腕。

 その時――――左手のひらの上で、あるはずのない口が開かれた。





 キィーーーーンッ……。





 静寂の音がする。カロは一瞬、何が起きたのか分からなかった。


 しかし、目の前で白い砂粒が地面の上で踊っているのが見えた――――次の瞬間。


「ピギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」


 と、空を割らんばかりの絶叫が、校庭――――いや、街中に響き渡った。


 耳を塞いでも流れ込み、脳を揺さぶってくるその声を真正面から喰らう、赤木。


 その勢いで、白砂の盾は雲よりも儚く一瞬にして砂へと戻ると、その裏にいた赤木は発狂の渦に飲み込まれた。


 赤木の瞳が、明滅する。

 体は宙で麻酔を打ったかのように脱力し、狂気の産声に飲まれた赤木はされるがままだった。


 そして、もはや意識は飛び、黒目も消滅し、完全に気絶する。――――そんな時だった。


「――――《魔蜘蛛の糸(フィル・アラクネ)》ッ!!」


 ドサッと地面に赤木が落ちる。と、入れ替わるようにして鉄骨が1本、ヒュウガに向かって飛んでいった。


 それは、釣り竿と釣り針のようにカロとつながっていた。

 すると、カロは宙を行く鉄骨に、ムチを通じて魔力を送り込む。


(……新井さんとの時、ムチを伝って魔力を送り込めた。なら、魔術を付与することもできるはず)


 その予想通り、鉄骨に《強化》の魔術が《付与》される。

 と、鉄骨は、ムチで繋がれたままヒュウガに向かってものすごい速さで飛びかかった。


「つぎはぎの時の石の応用……。もう見たよ。この学校でな」


 しかし、ヒュウガは鉄骨の軌道に沿ってくるっと身を翻し簡単に躱すと、逆に鉄骨をカロに向かって投げ返すそうとした。――――が、その時。


 鉄骨が――――ひとりでに動き出す。


「……ッ!」


 ヒュウガは異変を感じて鉄骨を手放した。


(こいつ、付与で事前に刺さるポイントを指定して――――)


 鉄骨が、ヒュウガの足元に刺さる。――――その瞬間、ヒュウガの耳に風の乱れる音が届いた。


 ヒュウガがハッと顔を上げると、目の前には()()()()()()()が迫っていた。

 カロは自分からムチを切り離し、鉄骨をペグにして、ゴムパッチンの要領でムチを飛ばしてきていた。


 そして、それが()()()()


「――――《魔蜘蛛古城ソー・アリラスティーク》」

 

 カロがそう口にすると、カロに切り離されたムチの断面が食虫小工物のように口を開けて、網に形を変える。


「はっ、ハナから攻撃じゃなく捕獲しにきたか」

 

 そして、魔術の網はヒュウガの体に纏わりつくと、地面に刺さった鉄骨(ペグ)の元まで引き摺り込もうとした。


「伸縮性に特化してるんだったか。――――が、それももう見た。ショッピングモ―ルでな」


 しかし、ヒュウガは自分の体が地面に引っ張られる前に大地を強く踏み抜く。

 すると、大地は割れ、鉄骨のペグが簡単に地面から外れた。


「《強化》」


 それから、ヒュウガは指をパチンと1つ鳴らす。

 と、ヒュウガは魔術の網の拘束をいとも容易く引き千切ってみせた。――――しかし、カロもこれでは終わらない。


 カロは鉄骨を投げた直後、ヒュウガに向かって走り出していた。


 そして、今――――ヒュウガに向かってムチを振り下ろす。


「――――そして、それは俺が教えたんだよ、落第生」


 しかし、ヒュウガは即座に鉄骨をカロに向かって蹴り上げる。


 すると、そのまま鉄骨はフリスビーのように回転しながら、ドッと鈍い音を上げてカロの腹に命中した。


「……相変わらず魔術はクソ以下だな」


 カロは、力なくヒュウガの足元に倒れ込む。

 体の中は、じんわりとした嫌な熱が胸のあたりから広がっていくのに、逆に四肢は震えそうなほど冷え切っていた。

 それでも――――カロはヒュウガを睨んだ。


「どういう、ことだ……。俺の時と同じって……。母さんは、今も生きて……」


「知りたいか? 全てを……。だが、困るのは俺じゃない」


 淡々と続けるヒュウガに、カロは這いつくばりながらも右手を振り上げ、《魔蜘蛛の糸》で攻撃しようとする。

 しかし、振り上げた右手の先では上手く練られない魔力が霧散するだけで、その手も地面にドサッと崩れ落ちた。


「……なあ、カロ。魔術の強さってなんだと思う?」


 そんなカロの姿に説得されてか、惨めに思ってか。ヒュウガは語り始めた。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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