6-4 思考を洗う
「この間抜けがッ! 魔力は先天的だろうと後天的だろうと、魔力はその人間の心と混ざり合うことで固有のものになるだよッ!!」
「――――は?」
「つまり、この世に1つとして同じ魔力など存在しねえってことだ。ショッピングモールでの魔力反応も、お前の魔力じゃない」
「そんなの、そんなお、おかしいだろ……」
「おかしくねえッ! いるだよ。お前じゃなくてもう1人、違法の魔術師――――黒魔術師、骨喰ヒュウガが!!」
カロは何も言えなくなって、立ち尽くすばかりだった。
「とんだ勘違いだったみてえだな。あたしは今、お前みたいな基礎魔術しか使えない低級の黒魔術師を相手にしてる暇なんかねえってのに」
ため息を吐く、赤木。すると、とあることに気がつく。
「……待てよ。お前、さっき2つの禁書魔術の反応は、玉砂シズクの誕生と洗脳魔術って言ったよな」
「え? ああ、この学校にきた時――――」
「あたしが追ってる禁書魔術《支配》は“人間の魂に干渉する魔術“だ。決して、洗脳の魔術なんかじゃない。っていうか……」
「……洗脳の魔術が禁書魔術なら、あたしもそれを使ったってことになるじゃないか。この学校に潜入する時に。あたしは特魔だぞ。そんなこと、あるわけないだろ」
「あ……」
「……心当たりはねえのか」
「え?」
「いたんだろ。あの日、あのショッピングモールに」
いた。確かにいた。俺とシズクと――――それから松永。
だけど、あいつは特魔で、もし禁書魔術を使ったとするならさっき赤木が言った、
『……洗脳の魔術が禁書魔術なら、あたしもそれを使ったってことになるじゃないか。この学校に潜入する時に。あたしは特魔だぞ。そんなことあるわけないだろ』
という言葉に反することになる。
もし、赤木があちこちで、叔父の――――骨喰ヒュウガの魔力の痕跡を見たのだというなら、それはシズクの降霊術によってこの世に呼び出された悪霊たちのことなんじゃないだろうか。
それなら、間接的には叔父の魔力で呼び出されたということになるし、叔父の魔力痕があっても不思議はない。
(新井さんがシズクに化けた時に《魔蜘蛛の糸》を通じて心が繋がったのは、ヒュウガさんの魔術で呼び出した悪霊とヒュウガさんからもらった俺の魔力が結びついたから……?)
それに、あいつだって他の生徒と同じようにヒュウガさんの魔術で洗脳されて……。
(だけど、待てよ。洗脳された時、あいつが話しかけてきたのって――――)
と、そこでカロは――――赤木に胸ぐらを掴まれた。
「おい、いま誰のこと考えてた」
「……誰って、松永」
「松永ぁ? なんで、あいつが」
「それは――――あいつがもう1人の特魔だから」
「……は?」
「知らなくても無理はないんじゃないか? 特魔同士は、完全にお互いを把握してるわけじゃないって言ってたし……」
「……ああ、そうだ。だがな、これを見ろ」
そう言って赤木はカロを投げ捨てると、懐からプリントを1枚取り出した。
それは、クラスの出席名簿の写しだった。
「なんで、私が玉砂シズクの存在はすぐ見破れたのに、お前のことは実力行使じゃなきゃ見破れなかったと思う?」
「そこに、名前が書かれてるからじゃないのか? 洗脳で辻褄を合わせたシズクと違って、俺たちは元々この学校の生徒だから」
「ああ。つまり、高校生だからってことだよな?確かに、特魔はお互いがお互いを全員把握してるわけじゃねえ。しかし、特魔ってのはあくまで公安機関、全員成人してる。つまり、外部から来たはずの特魔だったとしたら、ここに名前があるはずがねえんだよ。だって――――あたしの名前もここにはないんだぜ」
そして、カロの気づきが確信に変わる。
(洗脳された時、あいつが話しかけてきたのって――――校門を通る前じゃなかったっけ?)
瞬間――――カロは校舎に向かって走り出す。
叔父が生前、魔術布で範囲を指定したとするなら――――それは明坂高校に限定されてないとおかしい。
つまり、校門前で洗脳されることなどありえないのだ。
(なら、あれは――――演技)
なんというミスをしたのだろう。カロはよりにもよってシズクを松永に――――得体の知れない存在に預けてしまっていたのだ。
「おいおい、慌てるなよ 骨喰加那太――――いや、カロ」
しかし、そんなカロの背を1つの声が呼び止める。
カロが振り返ると、そこに立っていたのは――――松永だった。
そして、そのすぐそばには黒い魔力で作られた檻の中で――――シズクが眠っていた。
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