6-3 間抜け
ハンマーは床も壁も天井も関係なく、全てを巻き込みながら鉄槌を下すべく、カロ目掛けて襲いかかった。
「――――《爆花爆々》ッ!!」
その時、十字架が――――バチチッと火花を散らす。
さっきのように、爆発させるつもりだろう。
「――――《魔蜘蛛の糸》ッ!!」
対して、カロは咄嗟に魔術のムチを呼び出すと、ハンマーの持ち手に巻き付け、なんとか自身の左側に軌道を逸らす。
直後――――十字架が爆発して、校舎の壁を壊した。
すると、カロはその衝撃で砕かれた壁を通じて、校庭に転げ出る。――――しかし。
「……ぅッ、うぅうううううるぅぁッ!!」
その後を追うように、横振りのハンマーが壁を砕きながらカロを襲う。
と、カロは瓦礫たちと一緒に、校庭のもっとずっと遠くに弾き飛ばされた。
「チッ、さっきからちょこまかちょこまか……」
カロが通った時よりも大きく開かれた壁の穴から、赤木がハンマーを担いで姿を現す。
そして、一も二もなく、
「……それと言い忘れたけど、あたしは24歳だから。――――ちゃんと敬語使いな、クソガキッ!!」
と、地面に伏しているカロを押し潰さんと、続けてハンマーを振るった。
ズドンッ――――地を揺らすほどの衝撃で大地を砕き、突き刺さる十字架。
カロはそれをなんとか避け、さらにあの火花散る十字架の爆発を思い出して身構える。――――しかし、十字架は爆発しない。
そして、カロは遅れて気がつく。――――十字架の影に、赤木の姿がないことに。
そう、赤木はハンマーを振るったのではなかった。――――ただ、ハンマーをこちらに向かってぶん投げただけなのだ。
カロがそう理解した直後、地面に突き刺さっている十字架を軸にハンマーがグルンッと半回転――――突如として、ハンマーの持ち手を掴みながら赤木がカロの目の前に現れた。
赤木は、カロがハンマーを警戒してる間に走ってきていたのだ。
そして、地面を踏切り、宙を飛びながらハンマーの持ち手に捕まることで、その回転で生まれた遠心力の勢いもプラスして、
「おらぁッ!!」
と、カロの腹に痛烈な飛び蹴りを突き刺したのだった。
「かッ――――」
カロの体は否応なしに宙に放り出され、放物線を描く。と、無造作に地面に叩きつけられた。
「……おいおい、こんなもんかよ」
赤木はハンマーを担ぎ、カロにゆっくりと歩み寄る。
その足音は、まるで地面に突っ伏すカロに向けられた10カウントのようだった。
赤木がカロの前に立つ。そして、ハンマーを掲げたその時だった。
「……めよ。纏えよ。我が意思を。――――《強化》《付与》」
そんな呟きが、赤木の耳に届いた。
ハンマーが振り下ろされる。――――その瞬間、カロは身を捻って地面を転がり、横に避ける。
そして、体を起こすと、懐に隠していた魔術を付与した小石を赤木に向かって弾いた。
その小石の素早さと鋭さに思わず仰け反る、赤木。
すると、赤木の視線が外れた一瞬、カロは魔術のムチで赤木の両足を絡め取った。
そのまま足を引かれ、赤木が尻餅をつく。
と、カロはその上に飛び乗って、問答無用で赤木の首にムチを巻きつけた。
「おいおい、こんななんですか。特魔の魔術士さん」
形勢逆転。
そう言いたげに、カロがニヤッと笑う。
だが、内心は、
(――――で、どうする?このまま締め殺すわけにゃ……。とりあえず無力化? んでもって、松永にもう1回記憶を消してもらうか。となりゃ、相手の骨を2、3本は折る覚悟で……)
と、上手く行き過ぎて困惑していた。
そんなカロの葛藤とは裏腹に、赤木は迷わず首に巻き付いているムチを掴む。
そして、
「――――そのまま縛り上げなかったのはミスだな」
と、次の瞬間――――ムチに自身の赤い魔力を送り込み、発火させた。
「へ?」
導火線のようにムチを伝って自分の元まで迫ってくる、炎。
カロは慌ててムチの魔術を解除する。――――と、続けざま、赤木は緩くなったカロの馬乗りを、
「うッらぁッ!!」
と、ブリッジで持ち上げた。いや、突き上げたと言ってもいい。
とにかく、赤木はカロとの間に生まれた隙間から、新体操選手のようにローリングして頭のほうに足を抜く。
そして、カエルのような姿勢になると、そのまま地面についている手で体を前方に押し出して、カロに頭突きをかました。
「そんなんッ、有りかよ……!!」
先ほどの飛び蹴りよりは威力も飛距離もないものの、十分重い打撃を喰らって後ろに転がる、カロ。
そんなカロに、赤木が言った。
「なあ、いい加減そんな糸魔術なんてちゃちいもんじゃなく、勿体ぶらずに禁書魔術でも使ったらどうだ」
「……出来たら、とっくにそうしてるけどな」
「あ? どういう意味だ」
「ヒュウガさんは死んだ。禁書魔術を使える魔術師は、ヒュウガさんはもうこの世にはいない」
「――――!」
すると、赤木は口元を抑える。そして、続けた。
「……嘘だな。初めて禁書魔術が感知された日の朝、禁書魔術の反応は2つあった。ショッピングモールの騒ぎの数日前のことだ。そして、その日の午後に1つ」
「午後のは、悪霊が呼び出された時のやつだろ。んで、朝の2つの内、1つはシズクがこの世に誕生したからで。もう1つはおそらく、この学校に入った時に感じた洗脳の魔術――――ヒュウガさんが残してくれた最後の魔術だ」
赤木は、カロの言葉を聞いても黙ったまま。考え込むように、一点を見つめている。
「だが、ショッピングモールには骨喰ヒュウガの魔力痕が……」
「ヒュウガさんの魔力が残っているのは、たぶん俺が魔術を使ったからだ。わけあって、俺の身体にはヒュウガさんの魔力が流れてる。残念だけど、ショッピングモールでもこの学校でも、悪霊を倒したのはこの俺で――――」
「――――黙れ」
しかし突然、赤木はカロの言葉をぶった斬るようにそう言い捨てると、
「今の、全部本当か?」
と、尋ねた。
「ここで嘘ついてどうすんだよ。じゃなきゃ、とっくに禁書魔術とかいうやつ使って――――」
「なぜ、それをもっと早く言わなかった」
その時、赤木の声が静寂に満ちた校庭に響いたかと思うと、
「この間抜けがッ! 魔力は先天的だろうと後天的だろうと、魔力はその人間の心と混ざり合うことで固有のものになるだよッ!!」
と、赤木は衝撃の事実を口にした。
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