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6-1 真実へ向かって

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


 1Rのアパートで、赤い髪がゆっくりと起き上がる。


 まだ目覚めたてで電子レンジのようにボッーとしている頭では、昨日どうやって家まで帰ってきたのかすら思い出せない。


 ただ、学校に行かなければならないという使命があることは、忘れていなかった。


 歯を磨き、テレビをつけ、コーヒーを淹れる。

 最低限の格好に着替え、ヘアバンドで髪を捲り、洗顔、保湿、日焼け止め、化粧下地。


 日常に置かれたいくつものポイントを、辿っていく。――――が、その最中のことだった。


「――――あれ?」


 “今垣“と書かれたジャージを鞄に詰め、制服を身に纏って手を伸ばした先。

 そこにあったはずの髪ゴムが――――猫の飾りのついた髪ゴムがないことに気がつく。


 次の瞬間――――瞳孔が明滅する。


 すると、その赤い髪は テレビもつけっぱなしのまま部屋を飛び出す。

 その時、バタンッと扉を閉めた勢いで、机の上からクラスの名簿の写しがヒラヒラと地面に落ちた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



「――――答え合わせをしよう。どこが綻びで、いつから始まっていたのか」


 松永が、青空を背にして言った。


「……いま思えば、心当たりはいくつもあった。例えば、新井さんの名前は思い出せても、今垣の名前は思い出せなかったりとか。松永のことについて聞いてきたり……」


 カロが言葉を返す。


 屋上。

 カロとシズクは並び立ち、松永を見つめる。


 ここは、いつの間にか2人の秘密の話をする場所と化していた。


「初めて屋上に来ることになった時、あいつの手にはプリントが握られていた。

 それは、玉砂シズクという存在がこの一連の騒動に関わっている確証を得るためだったんだろうな。

 なんせ――――」


「――――洗脳しただけでは、名簿に名前は乗らない」


「ああ」


 いつかの放課後、クラス表を見た時、新井さんは「あれ?」と不思議そうに口にした。


 初めは、それを『シズクがいないことに気がついたせい』だと思っていた。


 けれど、“玉砂“という名前順に並べてみてもど真ん中にいそうな名前が記載されていないことを、果たして意識してない状態で、あの一瞬で、見つけることができただろうか。


 それよりも、もっと分かりやすい名前があるんじゃないだろうか。例えば……。



 ――――それ、ここです。私の席。新井、今垣で。



 自分の次の名前なんてのは。


「それで、どうするんだよ」


「どうするもなにも――――」

 

 と、そう言いかけた刹那――――松永の目が鋭くなる。


「――――来たな」


 そして、そう呟いた次の瞬間、


「――――《聖痕火葬(せいこんかそう)》ッ!!」


 荒々しく扉が開かれた。


 扉から飛び出した影は宙へ跳ね上がると、太陽を背にして屋上の床に大きな十字の影を作る。

 と、その十字はシズクに向かって襲いかかった。


「《魔蜘蛛の糸(フィル・アラクネ)》ッ!!」

 

 カロはほぼ反射的に魔術のムチで縛りシズクを抱き寄せ、同時に後ろに向かって飛び退く。


 顔を上げると、元いた場所には墓石のような大きな十字架が刺さっていた。


 そして、十字架の向こう――――それを叩きつけた人物の煌々と狂気を宿す目と、カロの視線がぶつかる。


「……《爆花爆々(ばっかばくばく)》」


 続けざま、そんな呟きが聞こえたかと思った次の瞬間――――。


「逃げろ!」

 

 そう松永が叫んだ。


 瞬間、カロは反射的に――――シズクを松永の方に向かって蹴る。


 その直後、カロを高熱と爆風が襲った。


 カロの体は抗えない風の力に突き上げられると、爆発によって1階まで一直線に崩壊した穴の中へと落ちていく。――――が、しかし、タダでは転ばない。


「お前は、こっちだッ!」


 強烈な衝撃で脳を揺さぶられ意識を持っていかれそうな中、カロは歯を食いしばってムチを振るう。

 と、魔術のムチは、自分たちを襲撃してきた今垣に巻きつき――――屋上から崩落した穴の中へ引き摺り込んだ。


「なっ――――」


 動揺する影。空中に放り出された2人。

 その最中、カロと松永の視線が一瞬ぶつかる。――――と、カロは力強く松永を指さして、


「――――任せた」


 と、確かにそう言った。

 慌ただしく崩落する瓦礫たちの中、その音がひしめき合っていても松永にだけははっきりと届くように。


 すると、そのすぐそばでシズクがカロの後を追って躊躇いもなく飛び込もうとする。


 が、松永はその首根っこを掴むと、


「飛び込むな!」


 と、叫び、続けて、


「あいつは、お前を俺に託したんだ。だったら、その気持ちを汲み取ってやれ。それにお前がそばにいたんじゃ、戦いたくても戦えねえんだよ。あいつは、そういうやつだ」


 と、シズクを屋上のまだ崩れ落ちていない地面の上に引き戻した。


 影はだんだんと小さくなっていく。


 やがて覗き込んだ穴の中、2人の影はすっかり見えなくなってしまった。


 ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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