5-2 間違い探し
カラスアゲハのベールが剥がれる。と、そこから現れたのは――――……。
「――――新井さん!!」
酷く暗く澱んだ表情でカロを睨む――――新井櫻子だった。
「参考までに教えてくれる? ……あの子と私、何がそんなに違うのかな」
「……① 目が合わなかった。② 俺のそばを歩かなかった。③ シズクはとある事情で、砂埃や痛みを感じねえ。そして、④ なんとなく」
「ふふっ、本当は目が合った時から気づいてたくせに。骨喰さんって亭主関白なんですね。それとも支配欲が強いタイプ?」
「さあ、どっちもあるかも」
そうカロが苦笑いすると、
「……そう。0点ですね」
と、新井も妖しく笑った。
▼ ▼ ▼ ▼
部室棟の前、赤い髪が揺れる。
視線の先には、ベンチで休むカロ、シズク、松永がいた。
そんな3人の元へ、野球ボールが飛んでいく。と、今垣は、
「あぶなーい!」
と、声をかける。――――その、すぐ後のことだった。
カラスアゲハが瞬いて――――シズクが新井に変わる。
今垣は一瞬何が起きているのか分からなかった。暑さでやられて白昼夢でも見ているのかと。
事実を確かめるため、3人のいるベンチに戻る。
「お、おい! 今のは――――」
しかし、そう声をかけた瞬間、目が合った新井がニヤって笑って――――カロたちの足元が爆発した。
次に気がついたのは、部室等の1階。陸上部の倉庫の中だった。
「な、何が……!?」
今垣は、高跳びで使用するマットに抱き止められながら状況を探る。
どうやら、あの爆発で後方に吹き飛ばされ、さらに壁を突き破ってここまで転がって来たようだった。
すると、瓦礫の中から、自分とは違うもう1つの影が立ち上がる。
そして――――その影は言った。
「――――お前の方だったか。特魔の魔術師は」
「……! お前、まさかわざと自分地面を蹴って……!!」
その時、髪を結んでいたゴムが切れて――――今垣の傍に猫の髪飾りが落ちる。
目の前に立っていたのは、松永だった。
▼ ▼ ▼ ▼
「――――待てよ! シズクをどこにやったんだ!」
「ふふっ、教えてあげません」
寝ぼけ眼で屋上で転ぶような鈍臭さを感じさせていた時とはまるで違い、後者を飄々と駆け抜けていく、新井。
カロはその後を追いかけながらも、ムチを取り出してみては、魔力を送り込んで悪霊を弾くために拘束しようと奮闘していた。
校舎へと逃げ込もうとする新井は、背後から飛んできたカロのムチを飄々と躱わす。
しかし、躱されたムチが勢いそのままに玄関口の扉のノブに絡みつくと、
「らぁっ!!」
と、カロはそれを思いっきり引いて扉を閉め、道を塞いだ。
「あら……」
すると、今度は自転車置き場へと進路を変える新井。
当然、カロは後を追いかける。
と、新井は悪霊によって得た身体能力で、自転車と屋根を踏み台にして、窓から2階に入ろうとしていた。
「――――させるかッ!」
カロは近くにあった黄色と黒の立ち入り禁止のバーを、ムチで掴んで投げつける。
と、それはブーメランのようにくるくると回って、新井の脇腹を叩いた。
「きゃっ……!!」
新井は窓枠を摘む直前で横に飛ばされ、自転車置き場の屋根に着地する。
すかさずカロはムチを木に巻きつけると、グググッと木を自分側に引き寄せ、それから力を緩めると反動で宙に跳ね上がった。
空中――――屋根の上の新井と視線がぶつかる。
と、カロは自由になったムチを今度は新井に向かって振るった。
新井は身を守ろうと、腕を顔の左側に寄せる。――――が、ムチの狙いは新井の顔ではなく新井自身で、ムチは新井の体を通り過ぎるとぐるぐると2、3回転。新井の体に捕え、縛り上げた。
「こっちに来いッ!」
カロは跳ね上がった時に得た慣性の勢いを利用しつつ、リールのように回転して新井を引き寄せようとする。
しかし、新井はピンチだというのに――――ベッと舌を出して、笑った。