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4-end 玉砂シズクの消失

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)



 一夜明ける。

 カロは授業の一環で、図書室に来ていた。


 依然、特魔の問題は解決していない。――――とはいえ、学校をいきなり欠席するわけにもいかず、疑っている新井を警戒しようにも、余計な行動取ればこちらが気づいていることを気づかれてしまうだろうからと、カロはなるべくいつも通りに過ごしていた。


「……ん?」


 すると、本棚の前で後をついてきていたシズクが立ち止まる。


 それは児童文学の本が並んだ棚で、シズクはその中の1つ『危なっかしい魔法使い』という本を見つめていた。


「気になるのか?」


 カロが声をかける。


 だけど、シズクはその問いかけには答えず、背表紙を眺めていた。

 しかし、何も言わずともその眼差しを見れば、ただの興味でその本を見ているのではなく、何か思い入れがあるのだろうということは容易に感じ取れた。


 それから何事もなく進んで、昼休みになる。


 と、図書室を出たところで、カロがシズクに言った。


「ちょ、ちょっとトイレ行くから、松永と教室で待っとけ」


 それから、カロは松永に「少しの間、こいつのこと頼む」と伝えると、松永もそれに頷く。


 シズクたちから別れること、5分。

 カロは、トイレから顔を覗かせてあたりを伺う。そこに、シズクの姿はない。

 すると、カロは教室とは反対方向へ向かって歩き出した。


 行き着いた先は、図書室だった。もちろん、クラスメイトは教室に戻っていて、1人もいない。


 外から聞こえてくる騒がしさと本の匂いに満ちた部屋を、カロは迷わずに進んでいく。そして、一冊の本を手に取る。


 『危なっかしい魔法使い』。その表紙の上では、龍と魔法使いの少女が銀色で装飾され、キラキラと輝いていた。

 


   ▼ ▼ ▼ ▼



「――――あれ、シズクと松永は?」


 教室に戻って開口一番、自分を待っているはずの2人の姿が見えなくて思わず呟く。

 が、すぐにその答えは自分で思いついた。


「……ああ、屋上か。ったく、待っとけって言ったのに」


 カロは、本をカバンにしまい弁当を手に取ると屋上に上がり、座っていられなるくらいの陽の白さで溢れた熱い地面に一歩足を踏み入れる。しかし、そこにいたのは――――。


「あれ、今垣だけ?」


「あ、やっと来た」


 今垣が、こちらに向かってヒラヒラと手を降る。

 どうやら、随分と1人で待ちぼうけを食わされていたようだ。


「なあ、シズクと松永見なかった?」


「ん? ああ、2人とも教室では見た気がするけど……。でも、お手洗い行って戻ってきたら2人ともいなかったよ?」


「あれ、まじか」


「まじまじ。ってかさ、もう暑いし、中で食べない? 踊り場でもいいから」


「……ま、それもそうだな」


「あ、新井さんは今日委員会の仕事があるから別で食べるって」


「へえ……」


「いや、へえって……」


 カロは、今垣に促されて校舎内に戻る。と、そこで、階段の下から遅れてやってきた松永と鉢合わせた。


「あ、松永。お前、教室で待ってろって……。って、シズクは?」


「ん? それならお前――――」


 すると、今垣が「あ、いた」と言って、遅れてシズクが松永の後ろから姿を現す。


「いつの間に……」


 驚く松永の後ろで、シズクは松永に向かって目をぱちくりとさせる。


「……?」


 しかし、その光景にカロは言葉に出来ない違和感を覚えた。


「――――い。……おーい、骨喰? 暑さでやられちゃった?」


 今垣にそう声をかけられ、ハッとする。


「あ、いや、なんでもない……」


「ふーん。んじゃ、中入ろうよ」


 そう言って、今垣がゴムを取り出し、「あつー」と髪を括りながら屋内に入った。


 それから少し歩いたところで、今垣はグッとカロに近づく。

 と、先を行くシズクと松永の背中を見て、囁き声で尋ねた。


「――――ところでさ、松永と玉砂さんってどう思う?」


「あ? どうって……」


「なーんか、松永の方が玉砂さんを意識してる気がするんだよねぇ……」


 これは高校生特有の少しいい感じの2人がいたらすぐ恋なんじゃないかと騒ぎ立てる、青春病だろうか。


 そういえば、初めて今垣に話しかけられた時、


 ――――なあ、骨喰って松永と仲良いの?


 と、聞かれたことを思い出す。


「……今垣は、気になるの? 松永のこと」


 カロは本当は興味ないけれど、社交辞令で聞いておく。

 すると、案の定、


「うん。気になる。気になるけど……」


 と、今垣は答え、それから、


「……ま、でも、いつまでも遠慮してたら埒が開かないよね。仕方ない。実力行使で行こ」


 と、身勝手に呟いた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 中庭に出ると、一行は屋根つきの通路の下を行く。


 その時、校庭から風に乗ってやってきた砂埃が、シズクの目を襲った。


「大丈夫か?」


 顔を顰めるシズクに、松永がそう声をかける。

 カロは松永に目を拭われるシズクをじっと眺めていた。


「ねえ、ここら辺でいいんじゃない?」


 今垣がそう言うと、4人は校庭の見える位置に置かれた日陰になっているベンチに腰をかける。――――が、その直後だった。


「あ! 飲み物忘れた! ちょっと買ってくる!」


 と、今垣が慌ただしく来た道を戻っていく。

 結局、ベンチには左からカロ、松永、シズクと、最初期の顔ぶれだけが残った。


「……んじゃ、まあ食いますか」


 そんなカロの気のない号令で、松永はパンを、カロは弁当を食べ始める。


 3人の間には、凪の様なのんびりとした時が流れた。


 高い塀の囲まれた校庭の遠くの方では、食事を済ませたのか後で食べるのか生徒数人がボール遊びをしている。


 すると、それを眺めながらカロが不意に言った。


「なあ、ところで――――」


 シズク、そして松永が振り返る。


「――――お前は誰なんだ? シズクの偽物さん」


 その言葉に、一瞬、時が止まる。が、シズクは首を傾げばかりだった。


 と、そこへ続け様、話の腰を折るように遠くから女性の声が届く。


「あぶなーい!」


 カロが振り返る。と、シズクに向かって野球のボールが飛んできていた。


 カロは咄嗟に《魔蜘蛛の糸(フィル・アラクネ)》を取り出すと、シズクを縛って自分の方へ抱き寄せようとした。――――しかし、その時だった。


 ムチがシズクを捉えた瞬間、カロの心臓がドクンと高まって、頭の中に映像が流れ込んできた。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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