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4-7 見つめる瞳

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


 ドンッと、今垣とぶつかって――――シズクが階段を踏み外した。


 しかし、カロの手首の周りに魔力の渦が生まれ、まもなく《魔蜘蛛の糸》がシズクに向かって飛び出そうとした――――その時。


 ふわっとした柔らかな風が肌を撫でたかと思うと――――直後、突風を纏って松永がカロとシズクの間に現れた。


 そして、それから遅れて松永の地面を踏み切った音が耳に届くと、目の前では松永がシズクの腰に手を回して王子様のように抱き留めていた。


「……大丈夫か」


 こくり、松永の言葉にシズクが頷く。

 と、松永は高級な美術品を扱うように、シズクを優しく地面の上に戻した。


 シズクが「ありがとう」と言う代わりに松永に頭を下げると、松永は、


「いや、無事ならよかった」 


 と言って、シズクから離れる。その一瞬、それを少し遠くで見ていた今垣とバチッと目が合う。


「……っ、あ、ご、ごめんね! 玉砂さん! 私ぶつかっちゃって!」


 すると、今垣は自分がしてしまったことに気がついたのか、急いでシズクの元へ駆け寄った。


 しかし――――そんな今垣の向こうから現れる、屋上にぽつりと浮かぶ新井の影。


「……骨喰、話がある。放課後、屋上に来てくれ」


「え?」


 たった1滴の小さな力でも、波を起こせば潮目を変える。


 松永は、それ以上何も言わなかった。


 だけど、その強張った顔が、平穏な日々に1滴の不穏さを滲ませる。


 その視線の先には、こちらをじっと見つめる新井の姿があった。



   ▼ ▼ ▼ ▼



「――――特魔(とくま)がクラスに!?」


 屋上にくるなり耳に飛び込んで来たのは、驚きの情報だった。


「おそらく彼女――――玉砂(たますな)シズクがこの学校に及ぼしている改変と同じことを特魔もしている。つまり、学生の中に紛れ込んでるんだ」


「どうして分かった?」


「放課後、体育館裏で魔術布を見つけた」


 そう言って、松永は胸元から透明な包みに小分けされた魔術布を取り出した。


「お前も、何か違和感を感じなかったか? 例えばほら、玉砂シズクがこの学校にやって来た時に起きたような、違和感が」


「違和感……。シズクが、この学校に来た時……」


 カロは連れてきていたシズクを見つめ、頭の中でシズクと初めて学校に来た日にあったことを辿り始めた。


 ――――無口であまり目立たないから、玉砂とは話したことなかったけど、()()()()()()()()()()()

 

 初めて松永とシズクが会った時、松永はまるで初めからシズクという存在を知っていたかのように、話していて。


 で、学校の敷居を跨いだ瞬間、ズンッと寒気が全身を襲ってきて。


 教室に行くと、隣のはずの『田淵』の席が1つ後ろにズレてて、代わりに列の最後尾に机が1つ足されて。

 6列×6席の綺麗に並ぶ正方形が、変に出っ張った形になっていて……。


「――――あ」


 そこでカロは、記憶の中に違和感を見つける。

 そして、それは昨日の放課後へと繋がる。


 ――――廊下側に、6席ずつ綺麗に並んだ2列。しかし、カロはふと中央で立ち止まる。()()()()()()()()()()()()、それがどっちの列に並んでいたのかど忘れしてしまっていた。


「なんであの時、廊下側の席があぶれてたんだ? シズクは、窓側の席のはずで……」


 その瞬間、視界が歪んで、あべこべな重力に引っ張られるようにカロの膝は力を失うと立っていられなくなる。


「今朝の教室、席の数は38(・・)だった。だけど――――」


 ――――シズクが入ってきて38に増えた席の並びにも見慣れた頃。


「――――だけど、シズク1人が増えただけなら、増えるのは1人だけ。6×6の席に1席増えるんだから、37(・・)じゃなきゃおかしい」


 そう気づいた時、スッと頭に纏わりついていた歪みが消える。


「廊下側……。つまり、アから少なくともカ行。新井(・・)今垣(・・)


 松永は、カロの出した結論に神妙な面持ちで呟く。

 と、それから続けて、


「ほぼその2人で間違いないだろう。心当たりはあるか? 例えば、自ら接触を図ってきたとか」


「いや、そこまでは……。どっちも自分からだったし、どっちもお前目当てだったよ。そっちは? 同じ特魔なんだろ?」


 カロはスッキリとして軽くなった頭を手首でポンポンと叩き、思考を整理させる。


「……本来、広範囲に魔術をかけるには、その範囲を定めるために四方に魔術布を設置する必要がある。

 そして、対象は細かく選べない。

 おそらく、俺もその魔術布の範疇にいて、認識を書き換えられている。

 ……だが、心当たりがないわけでもない」


「心当たり?」


「――――新井だよ。新井櫻子」


「新井さんが、特魔……!?」


「あいつは、俺に体育館裏のことを聞いてきた」


「新井さんとの間に、何かあったのか?」


「……さあな。体育館裏で何か一悶着あって記憶を消されたのかもしれないし、単に自分の存在に勘付いていないか探るためだったのかもしれない。――――だが、俺の手元には魔術布があって、向こうは俺に接触してきた。ってことは、だ」


「向こうはお前のことを知ってるのか。なら、お前に協力を持ちかけたり……」


「前も言ったろ。俺と奴らとでは派閥が違う。

 奴らの目的は、()()()()()()()()。俺は調査までだ。

 奴らは、今回の件で俺たちの派閥には少しも手柄を取らせたくないんだろう」


「……なぜ、特魔がいることを俺に教えた」


「俺も手柄を取られる気はさらさらない。俺の任務は、あくまで調査。対象に死なれちゃ困るんだよ」


 そして、松永はカロと目を合わせて問う。


「守り通すんだろ? 玉砂シズクを」 


 その灰色の瞳には試したり揶揄ったりするような不純さはなく、ただ真っ直ぐにカロの中にある覚悟を見つめていた。


「……ああ。もちろん」


 いま一度、カロは兜の緒を締め直すと、シズクを守ると決めた時から揺るがぬ思いを言葉にした。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 その様子を、校庭から眺める影が1つ。


 手元のスマートフォンの画面には、


《おそらく、2人のどちらかが骨喰ヒュウガです》


 と、誰かへ送信したメッセージが表示されていた。

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