表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/53

4-6 人間じゃないみたい

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


「いやぁ、眠いねぇ……」


 一夜明けて、屋上。

 青空の下、倦怠感に満ちた声で今垣が太陽に向かって呟いた。まったりとしていて、いつもの覇気はない。


 5人は今日も、昼食を共にしていた。


「次の時間なんだっけ?」


 今垣がカロに尋ねる。


現国(国語・現代文)


「うーわっ! 水泳の後に現国って100寝るわー……」


 今垣の髪が風にふわっと煽られて、塩素の臭いが香ってくる。


「あーあ……。こう、バシッと背中叩いたら眠気だけ飛んでいってくれないかなぁ……」


「そしたら痛みで起きるんじゃ……」


「その痛みが嫌なんじゃん! ……ってか、玉砂さんは全然眠くなさそう」


 そんな今垣の言葉に、カロは心の中で「そりゃ、土人形だから……」と思いながらも、そんなことを口にはできないので、


「……まあ、いつもぼーっとしてるし、こんなもんだろ」


 と、フォローを入れる。


 しかし、その言葉が気に入らなかったのか、カロの隣でふらふらと揺れていたシズクは無言でカロの右肩に頭をぶつけた。 


「――――でっ!」


 カロが、バッとシズクの顔を見る。


 最近のシズクは、出会った頃の人間味のなさは薄れてきたものの、逆に名前を呼んだり感情が出始めたことによって、表情や視線、行動などで分かりやすく主張するようになってきた。


(しかも、目立たないように攻撃する狡猾さもあるんだよな……)


 すると、そんなシズクを見て今垣が言った。


「でも、玉砂さんって口数も少ないし、いつもぼーっとしてるし、ご飯もあまり食べないし――――」


 そして、


「――――まるで、人間じゃないみたい」


 今垣のその鋭い一言に、カロの心臓は鷲掴みにされたようにドクンと強く脈を打つ。


 しかし、今垣はすぐに、


「あ、誤解しないで! 妖精さんみたいに可愛いってだけだし、良いなってだけで」


 と、補足する。


 それは、なんでもない言葉のはずだった。

 妖精だとか天使だとか、すごく可愛いものを人間じゃないっていうこと自体はすごく自然なこと。


 だけど、カロの頭はそう理解していても心臓は高まったままで、


「ねえ、骨喰はどう思う? 玉砂さんのこと」


 と、続けて聞かれると、その飲み込まれてしまうような赤色の大きな瞳も相まって、カロは蛇に睨まれたように固まってしまった。


 が、その時――――ちょうど昼休みの終わりを告げる鐘が辺りに鳴り響く。


「ありゃ、もうそんな時間か」


 今垣は裾を払い、立ち上がる。

 カロも追求されずに済んで胸を撫で下ろすと、遅れて立ち上がった。


「あ。新井さんも夢見心地だ」


「え?」


 今垣にそう言われて、振り返る。と、そこには、松永の隣でうとうととしている新井がいた。


「新井さん、行くよ!」


 今垣が声をかける。と、新井はハッと目を覚まして、慌てて教室に戻る準備を始めた。


 その横で松永も立ち上がる。すると、その様子を見ていた今垣が尋ねた。


「――――あ。そういえば、骨喰はああいうの使わないの?」


「ああいうの?」


「ほら」


 そう言って、今垣が松永の方を見ながら耳を触る。松永の耳には、ショッピングモールの時にも見た三日月型のデバイスが装着されていた。


「あー、俺はああいうのはなぁ……」


 “ああいうの”とは、次世代スマートフォンのようなもので、発売されたばかりだが学校の何名かはすでにスマホから乗り換えていた。


 だが、カロは“ああいうの”が苦手だった。


「授業のたびに外さなくちゃだし。あいつはタブレットだけど、俺はノートで勉強してるくらい古いタイプだから」


 最新科学へ適応できないのは、あるいは魔術を使っている代償なのだろうか。

 だが、叔父はそういうのが好きだったし、やっぱり単純に自分が古いタイプだからなのかもしれない。


「そっちは、使わねえの?」


「私もからっきしダメ。どうにもついていけないんだよね、最近の流れ」


「そんな年寄りみたいな……」


「あ゛?」


「……嘘です、ウソウソ。ジョーダン、ジョーダン」


 そんな会話をしながら、踊場へ向かう、カロ、シズク、今垣の3人。――――が、その後ろ。


 松永が3人に続こうとすると、後方で軽いものが跳ねた音がした。


 振り返って見ると、寝起きなのもあって、どうやら新井が地面に足を取られてすっ転んでしまったようだ。


「――――よく転ぶんだな」


「あははは……。水泳苦手で、足腰が……」


 松永が床に散らばった弁当箱を拾い上げて、新井に差し出す。


「ありがとうございます」


 すると、新井はそれを受け取ってから、


「……あの、松永くんは覚えてますか? 体育館裏のこと」


 と、不意に聞いた。


 そして――――それは、松永の眉を無意識に動かさせた。


「体育館裏――――」


 松永は、何か思うところがあるのかそう呟く。が、松永は冷静さを顔に取り戻すと。


「……いいや、覚えてない」


 と、動揺を悟られないように返事をした。


「そう、ですか」


 どこか気落ちしたような様子を見せる、新井。


 一方で、階段の踊り場の上。

 そんな2人やり取りの裏では、カロの「年寄りみたい」という発言に対して、


「ねえ、玉砂さんも。ひどいと思わない?」


 と、今垣が一歩前に出て、カロを挟んで並んで歩いていたシズクを覗き込んだ。


 共感を求められた、シズク。

 しかし、シズクは今垣と目が合うと、スッとカロの影に隠れる。


「えぇ!? 玉砂さんもそっち側!?」


 グイッとさらにシズクに近づく今垣。

 すると、シズクはさらにカロの後ろに隠れて、そのうち2人はカロを中心にぐるぐるとイタチごっこを始める。


「おう……。おう、おう、おう、おう、おうおうおうおう……!!」


 加速していく2人を目で追う、カロ。――――が、次の瞬間。


「あ」


 ドンッと、今垣とぶつかって――――シズクが階段を踏み外した。


 ゆっくりと倒れていく、シズク。

 カロは力なく宙を漂うシズクの手に思わず手を伸ばすが、わずかに掠めるだけで届かない。


 昨日の放課後の頭の欠けたシズクの姿が、脳を過ぎる。と、カロは咄嗟に《魔蜘蛛の糸(フィル・アラクネ)》を放とうとしていた。


 しかし、カロの手首の周りに魔力の渦が生まれ、まもなく《魔蜘蛛の糸》がシズクに向かって飛び出そうとした――――その時だった。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


 励みになりますので、良いと思ってくださった方は【☆】や【ブックマーク】をポチッとしていただけると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ