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3-end ムカつくやつ

  挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


 ショッピングモールの1階出口。


 カロがシズクの肩を借りて、松永が男を担いで出口の前までやって来る。


「うわぁ……。すごい人だかり……」


 すると、カロたちの後ろをついてきていた親子が呟いた。


 窓の外には、救急隊に警察に野次馬にメディアと多種多様な人々が集まってきていた。


「……どうすっか。いま出ていったら、間違いなく捕まるぞこれ」


 カロがこそっと松永に耳打ちする。――――すると、松永が指を鳴らした。


「障壁魔法の応用で、気配を消す。と言っても、誰かにぶつかれば術は解けるから気をつけろよ」


 松永はそう言って目立つ位置に担いでいた男を下ろすと、近くにあった館内地図を眺める。


「……あった。裏口から出よう」


「あの、その男の人は?」


 母親が尋ねる。


「置いていきます。すぐに警察や消防が入って来るでしょうから、見つけてもらえるでしょう。それより、この騒ぎに巻き込まれるほうが困りますから。メディアも来てるし、写真を拡散されるかもしれません」


「拡散……」


 母は松永の言葉を聞くと、子供を見る。


「そう、ですね」


 母親が納得したのを確認すると、松永は廊下を進む。続いて、カロとシズク、その後を親子が追った。


「――――《魔蜘蛛古城ソー・アリラスティーク》、知ってたのか?」


 少し進んだところで、松永がカロに聞いた。


「あ? なんだそれ?」


「お前が屋上で使った、あの蜘蛛の巣みたいな魔術だよ」


「ああ! あれってそんな名前だったのか」


「知らずに……?」


 松永が驚いたのには、わけがあった。


 糸魔術は元来、基礎魔術の次に習う初級魔術だった。

 糸の太さを調整する感覚や魔力量のコントロールを、あやとりのような遊びを交えながら学んでいく簡単なもの。


(が、性質変化となれば話は別。直前まで不出来な糸魔術しか使えなかったくせに、あの一瞬で糸の性質をゴムに変化させた。それに、あの魔力量も……。

 迷いを断ち切り弱さを受け入れ向き合うことで、糸の太さはそのまま特殊に進化したのか……?)


 さらに、それとは別にもう1つ、松永には気になることがあった。


「……そういえば、どうやって屋上まで上がってきたんだ。あの魔術を使った後」


「どうやってって……。んー、縮めって思ったら縮んだから、そのまま上がってきたっていうか……」


 その言葉を聞くと、松永は目を細める。


(釣竿のように伸縮自在に? いや、リールのようなものなしで自由に長さを調節できる分、もっと自由か)


 カロの魔術に対する熟練度がどれくらいかは分からない。

 が、少なくとも記憶の中のカロは、そんな器用なことはできなかったはずだ。


(こいつ、本当に仕組みを理解しないで発動したのか? だとするなら……)


 松永は呟く。


「……思ったより、厄介かもしれないな」


 すると、カロが聞いた。


「なんだよ、そんなすげえ魔術だったのか?」


「……まあ、比較的」


「ほほぅ。そうかそうか。ま、なんたって、俺は偉大な魔術師の弟子だからなー」


 松永にちょっぴり認められたのが嬉しかったのか、カロはしたり顔を見せると、柄にもなく浮かれる。


「偉大な、魔術師……?」


「俺の叔父さん。もう死んじまったけど、俺の命の恩人だ」


「……!」


「いやー、しかし、そんな凄い魔術だったとは。やっぱり、ヒュウガさんからもらった魔力だからかな」


 そう言って、カロは立ち止まって自身の手を見つめる。


「それか、力を貸してくれたのかな。ヒュウガさんが。――――それが俺のためか、シズクのためかは分かんねけど」


 そして、松永に向けて言った。


「……さっきの屋上でのことだけどな」


 カロに合わせて、松永も立ち止まる。


「やっぱり、お前にシズクは預けないことにするよ。確かに俺は魔術師として下の下で、人間性だってお前には勝てねえのかも知れねえ。――――でも、こいつが望む限り俺はそばにいたい。理屈じゃなくてな」


 カロは小指を見つめながらそう語ると、続けて松永に言った。


「……だから、覚悟しとけよ」


「覚悟?」


「俺は、シズクを守るためならなんだって利用する。もちろん、お前のこともな。俺が倒せねえような悪霊が出たらお前に倒させるし、シズクを排除する連中が襲ってきたならお前も巻き込む。お前の立場なんて関係ねえ。俺たちのためにとことん利用してやる!」


 その内容は、他力本願。

 一言で言ってしまえばそんな情けない内容なのに、そう宣言したカロの顔はどこか吹っ切れていた。


「――――でっ!」


 が、そんなカロに腹が立ったのか、松永はカロに膝カックンをかます。と、それから、


「……ふん。《強化》に《付与》に《糸魔術》。基礎魔術しか使えねえ奴が弟子のくせに、偉大な魔術師か。くだらねえ」


 と、捨て台詞を吐いて、スタスタと先を歩いていった。


 一方で、カロはヘロヘロと地面にへたり込んでしまう。


「なっ、てめえ……! 俺は魔力切れだって言ってんだろうが!!」


 しかし、松永はそれを無視してどんどん進んでいく。――――と、廊下には、 


「なんだ、あいつ! むかつくッ!!」


 そんな弱々しく情けない叫びが響いた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 揺れる猫の髪飾り。弾む息。


 住宅街を抜けて、ショッピングモールへ1つの人影が辿り着く。

 これでも急いできたのだが、どうやら出遅れてしまったようだ。


「すみません。特魔です」


 立ち入り禁止と書かれた黄色いテープの前で門番のように鎮座する警察官にそう伝えて、女性は中に入る。


「ん? おおっ、重役出勤だねえぇ……」


 屋上。


 ハゲ上がった頭に、憎たらしい目つき。

 ベテランの風格を漂わせる刑事が嫌味ったらしく駆けつけたばかりの女性に言う。


 その態度に女性は苛立ちを覚えたもののそれを口にはせず、代わりに、


「……申し訳ありません」


 と、自宅にいた時の怠けた様子とは正反対の、いかにも公安といったきっちりとした態度で理性的な言葉を発した。


「で、どうかね? やっぱり、そうかね――――赤木(あかぎ)2等魔術士(にとうまじゅつし)


 ベテラン刑事が聞く。


「……ええ。黒い魔力、現場の被害状況から見て間違いなく悪霊の――――それも強力な魔術によって呼び出された悪霊の仕業です」


 すると、赤木と呼ばれた女性は舌打ちをする。


禁書(きんしょ)魔術、潜入前にもう2回も……」


 しかし、その言葉に宿る不穏さは誰に届くでもなく、蜂蜜のように濃く厚くオレンジにとろけた夕陽に飲み込まれる。と、赤木は夕陽を睨んで、


「何が目的だ――――骨喰ヒュウガ(・・・・・・)


 そう、呟いた。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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