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3-1 転がる世界

  挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


 水面は波を立て――――カロはコインと共に吹き飛ばされた。



 顔を上げる。と、そこにいたのは悪霊ではなく、明らかな人間の男だった。


 ――――ただし、禍々しく歪んだ魔力を纏っている。


 ギロリ――――カロと男の目が合う。と、男は情けない声で、



「俺は……! 俺はぁ……ッ!!」



 と、カロの肩に掴み掛かった。



「――――しゃがめッ!」



 目の端に映る伸びた影、そして風を切る音が耳に飛び込んできて、カロは反射的に身を屈める。


 その直後――――カロの後頭部から飛んできた鉄柱が、男を吹き飛ばした。



「――――!」



「無事か!」



 そう言って駆け寄ってくる、松永とシズク。鉄柱を投げたのは、どうやら松永のようだった。



「お前! 掠ったぞ!!」


「あ? じゃあ、肩を噛みちぎられた方が良かったか?」


「噛み……!? あの人が?」



 カロは振り返る。と、吹き飛ばされた男は、天を見上げながらぶつぶつと何かを呟いていた。



「あ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!! 俺が悪いわけじゃねえだろうが……。あんたがギリギリまで申請忘れてたから、修正間に合ってねえんだよ……。なのにッ! 俺に押し付けやがってッ!! ってか、なんでこんな時代にブラック企業が残ってんだよ!! ああッ! この世界なんて、全部壊れりゃいいんだ!!」



 そして、手で目を掻きむしったかと思うと、



「全部全部、死んでくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」



 と、割れんばかりの叫びと共に、黒い涙を流し始めた。


 油のようなどこか不気味な粘り気を持つその黒い涙は、男の頬を伝ってあたりに落ちると、男の周りに黒くどっぷりと淀んだ水溜りを広げていく。それはまるで、影の池のようだった。


 すると、隣に立った松永が言った。



「羽化する前に倒すぞ」



「羽化?」



「……悪霊には、2種類ある。


 マシなのが、この間のつぎはぎみたいに、いくつかの悪霊が集まり実体化するもの。


 そして、タチの悪いのが、負の感情に寄生するものだ」



「寄生……?」


「つまり、あれは人だ。


 そして、人の中で悪夢を見せ続け、悪意を生み続け、悪霊として開花できるだけの負の感情を食らい、育ち、やがて人格を乗っ取る」



「――――人格ってことは」



 松永は淡々と、まるでゲームの敵モンスターのギミックを説明するかのように、



「開花すれば、段違いに強くなる。だから、その前に悪霊を弾き出す。――――間に合わなければ、殺す」



 と、答えた。



「……それで、どうやって助けるんだ」



「俺があいつに触れれば、直接あいつの魂に魔力を流し込んで悪霊を押し出せる」



「じゃあ、俺は何をすれば……」



「――――退いとけ。足手纏いだ。お前じゃ無理だ」



「なっ……! 確かに俺は、弱えかもしれねえけど……」



「そうじゃない。お前には覚悟がない」



「そんなこと……!! 俺は、シズクをちゃんと守るって……」



 そう言いかけて、カロはシズクを見る。



「それに、悪霊が呼ばれたのは、その、シズクの、いや俺たちのせいでもあるし……」



 と、その様子を見た松永は、長いため息を吐いて、



「……そうか。なら、やってみろ。拘束してくれればいい。そしたら、俺が悪霊を弾き出してやる」



 と、近くの柱に背を預けた。



 カロは松永に道を譲られて、取り憑かれた男――――悪霊と対峙する。悪霊は、辺りを縦横無尽に破壊していた。



 混乱して逃げ回る人混みの中、悲鳴がこだまする。

 と、悪霊はその中で、とある子連れの中年に狙いを定め、にじり寄っていく。



 そして、近くのベンチを軽々と持ち上げ、天に掲げた。――――その時だった。



「出でよ! 《魔蜘蛛の糸(フィル・アラクネ)》!!」



 カロは悪霊の後ろから襲いかかり、悪霊の右腕をムチで縛り上げた。



「……っ、さっさと逃げろ!」



 カロは悪霊の腕をなんとかムチで制御しながら、襲われかけていた中年に声をかける。


 と、中年は子供を連れて、お礼も言わずにそそくさと逃げ出した。


 しかし、ホッとしたのも束の間――――カロの世界は一気に平衡感覚を失った。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 次にカロが意識を取り戻した時、カロは地面に転がっていた。


 変に冷えた体内。止まらない脂汗。

 苦しさと痛さの混ざった血の味。

 霞む視界。

 わずかに残った記憶を辿り、カロは何とか状況を探る。


 カロの目の前には、かつてベンチだったものの木片が転がっていた。


 どうやらカロは自分が縛っていた側だったはずが、逆にムチを悪霊に引かれると宙に放り出されてしまい、そこに近くにあったベンチを叩き込まれてしまったようだった。



(なんて、馬鹿力……!)



 カロの目の前に転がっているベンチは、明らかに悪霊が取り憑いた男の体重よりも重たいものだった。

 にも関わらず、悪霊はそれを飄々と持ち上げていた。



(これが、悪霊――――)



 満身創痍のカロ。と、そこへ、シズクが駆け寄ってくる。



「……ぁ、ぶねぇ、から。下がっとけ……!!」



 と、その時、カロの警告がシズクに届くよりも早く――――強烈な風纏って飛んできた鉄柱が、シズクを攫った。

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