2-end 願いのコイン
2人の間を――――金色のコインが飛んでいく。
カロも松永も、不意に通り過ぎたそれに目を奪われていると――――ポチャンッ。それが泉に落ちた。
「――――な」
それは、シズクの持っていたコインだった。
「……っ、なぁああああああああっ!? お前、あれ1個500円すんだぞ! ちゃんと願ったんだろうな!!」
カロはシズクの肩を掴むと、服を買い、すっかり寂しくなった残高を思って、ガクガクと揺さぶる。
買い与えたコインは、水の抵抗を受けながら泉の中に沈んでいっていた。
シズクはカロにされるがままで、その表情から感情は読み取れない。そんな様子に、
「こいつまじか……!」
と、驚愕するカロ。すると、松永が、
「お前が考えすぎだ。さっさと弾けよ」
と、続けてコインを弾いた。
「違っ! 俺は金の大切さを……」
しかし、そこまで言いかけると、
「そんなにガメついと、嫌われるぞ」
と、言いながら、松永がカロの横を通った。
「嫌われ……!」
そうしてカロは、肩を掴んでいるシズクの顔を見る。
相変わらずシズクの表情は読み取れない。が、カロは、
「……分かったよ」
と、不服そうに言うと、泉に向き合って、コインを再び親指に乗せた。
(そうだよな。適当でいいんだ。こんなもん、叶うか叶わねえか分かんねえし。叶ったらいいなくらいで)
願いは、コインと同じ。
叶うと思っているうちは希望でも、その裏には必ず叶わなかった時の絶望を孕んでいる。
だから、カロはいつもコインを弾かない。願わなければ、少なからず絶望することもないから。
(けど、そうだな。願うなら……)
目を閉じると、カロの脳裏にはシズクの姿が浮かんでくる。
そして、コインを弾くため、親指を跳ね上げた。
「――――死ねばいいのに」
が、その時だった。
どこかで呟かれた男の声がカロの耳に届く。
と、宙に舞うカロのコインの前を――――カラスアゲハが横切った。
(――――あ)
その傍ら、シズクの見ていた噴水の上に表示されている時刻が、12時59分から13時00分に変わる。
瞬間――――カロの左側で空気が乱れて、暴風が巻き起こる。
すると、水面は波を立て、カロはコインと共に吹き飛ばされた。
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