2-6 人としても、魔術師としても
2エピソード同時投稿です!
この次のエピソード【2-end】も、よろしければご覧になっていってください!!
「――――で、なんで帰るかって言ってたのに屋上なんだよ」
照りつける日差し。ショッピングモールのガラス戸を出ると、そこは屋上庭園だった。
ガラス戸を出てすぐのところには噴水があり、その頂点では現在時刻が水に浮くように表示されている。
これは、ショッピングモール内の広告でも見た3Dホログラムと噴水を融合したもので、作られた当時はその技術力の高さに連日話題に上がっていたこのショッピングモールを象徴する代物だった。
シズクは噴水の淵に向かって歩き出し、その淵でしゃがんで水面に映る自分の顔を見つめる。
と、その後ろ、シズクをのんびり追いながら、松永が言った。
「いいだろ、別に。ちょっと寄り道しても」
「あのなぁ。3階から1階の出口に向かう道中にある店に寄るんだったら、それは寄り道でいい。だが、わざわざ屋上まで上がるのは、寄り道じゃねえだろ!」
「でも、ほら。楽しそうだ」
そう言って、松永はシズクを示す。
その様子を見ると、カロも「いや、まあ……」と何も言えなくなってしまう。
すると、松永が言った。
「彼女のことだがな、特魔に預ける気はないか?」
「――――!」
「彼女は、自由にしないほうがいい。
これから悪霊絡みでも特魔絡みでも、何度も危険な目に遭うことになるだろうし、そのうち手に負えなくなる。
だが俺に、いや特魔に預けておけば、そんな危機にも即座に対処できる。上が彼女の処分を決める時にも、俺たちの管理下にあったほうが有利に働くかも知れない」
「……それは」
「何も、今すぐにってわけじゃない。だが、考えておけ」
「……ってか、そんな危険な監視対象とこんなに一緒にいていいのかよ」
「別に。見失うほうが問題だ。それに……」
そこで、松永は言い淀む。
「それに?」
「……いや。そういえば、ここにはあれもあるみたいだぜ」
松永が口にしたその言葉は、カロが問う前に口にしようとしていたものとは違うような、誤魔化されたような感じがした。
松永が“あれ“と言ったのは、シズクが見ている噴水とはまた別の小さなものだった。近くの立札には――――。
「――――願いの叶う泉?」
「そ。まず近くに置いてある箱で支払う。すると、トス用のコインが出てくるから、泉の周りに引いてある線の外側に立って、泉に向かって親指で弾く」
「はっ! くだらねぇ」
松永の説明を鼻で笑って一蹴する、カロ。
「こんなんはな、話題性重視なんだよ。それに数日経てば回収されて、このショッピングモールが利益を独占……」
が、松永は耳につけているデバイスを触ると、
「慈善団体に寄付されるらしいぞ」
と、答える。
「だとしても、そもそも、こんなのでそんな簡単に願いが叶うわけ……」
「――――ん? やるか?」
すると、こちらの言葉を無視して、松永の尋ねる声が聞こえてくる。
カロが顔を上げると、どうやらぶつぶつと言い訳を重ねる間に、シズクが2人の元へ戻って来ていたらしい。
松永の問いにこくりと頷く、シズク。
と、泉のほうへスタスタと歩き出す、シズクと松永。カロはそんな2人の後を追いかけながらも、
「しかし、こんな些細なことでも、運という不可解な要素にはかかわってくるかもしれない。
ほとんどの成功者は須く、運について言及しているわけで、それは目標達成に必要な要素というわけだ。多くの成功者も、運は実力の内と……」
と、さらに言い訳を重ねた。――――が、その最後には、
「で? 結局」
と、松永に問われると、
「や、やるよ! やるやる」
と、結局答えた。
▼ ▼ ▼ ▼
ピッ、という電子音が鳴ると、箱の中からコインが滑り落ちてくる。もちろん、シズクの分もカロが払った。
コインは、金色で少し重たい。風には飛ばされそうにないそれを親指に乗せて、カロは叶えたい願いを考える。
しかし、こういう時、カロは昔から無心でいることにしていた。
願いは、叶わなかった時が1番辛いということを、カロはもう高校生まで生きてきたから知っていた。
(――――あ)
すると、泉を囲う人混みの中、さっきソフトクリームをあげた親子が目の端に映った。
どうやら、彼らもこの泉へやって来ていたようだ。
「何をお願いするの?」
「プロのバスケ選手になれますようにって!」
今、子供が口にした『プロのバスケ選手になる』ということが、あの子にとってどれほどの距離感に位置する夢なのかは分からない。でも……。
(プロになるなら、少なくともこんなとこで遊んじゃいないんじゃねえの)
なんて、もしかしたらあの子供にとってはたった1日の休みかもしれないのに、母と唯一過ごせる日なのかもしれないのに、それでもカロは邪推してしまう。
願いを問われて思いつくのが、途方のない夢だったらいい。叶わなくても、諦められるから。
例えば、世界征服したいだとか、宝くじが当たりますようにだとか、それらはカロにとって現実味のない夢だ。
でも、変に心が年老いてしまったから、願いを問われた時――――金、愛、環境、そして、恨み辛み。
希望は現実味を持ったものばかりになってきて、叶うかもしれないという淡い期待を嫌でも抱いてしまう。そして、絶望もより身近なものになっていく。
あの人と付き合いたい――――でも、あの人には自分の知らない恋人がいた。
もっといい仕事に――――しかし、実力以上の結果を求められることになる。
会社から、あの人がいなくなって欲しい――――気づけば、その人は居座り。自分が辞めることに。
現実とは大抵、こういうものだ。だから、願う意味なんて――……。
(――――って、俺はなんでこんなもんに真剣になってんだ! 適当に考えりゃいいんだよ、らしくねえ。今日はなんか変だぞ、骨喰加那太……)
すると、コインを持って頭を抱えるカロに、松永が言った。
「お前は、何を願うんだ?」
「あ? ……まあ、適当に」
「にしては、結構悩んでるな」
「まあ、一応これ1個あたり――――」
しかし、カロがそう答えかけた時――――それを遮るように、2人の間を金色のコインが飛んでいった。
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