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2-3 行きつく先は――――爆破事件!?

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


「どうせなら、この後一緒に回るか。俺の仕事は、お前たちの監視だし」


 松永は、カロに言った。


「……え?」


「それとも、別れて影でコソコソ見られてるって思ったまま、ここを巡るか? そんなの嫌だろ」


「……」


 正直、どっちも嫌だった。そもそも、話す仲でもないし。


 しかし、どちらかといえば、近くにいた方が幾分かマシだろう。どこから見られているか分からないのは、気持ちが悪い。


「……わーったよ」

 

 カロは不服そうにそう言うと、飲み物を運んできたプレートを手に取って、ゴミを片付けた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



「で、何しにきてたんだ?」


 フードコートを出て少し歩く。と、松永が聞いた。


「こいつの服を買いに来たんだよ」


「なら、“ZERA(ゼラ)“か“グルシロ“か“.C(テン・シー)”だな。値段的には」


「……詳しいんだな」


「ん? 普通だろ。一緒に入るなら、無難に“.C“か“グルシロ”だな。“ZERA”は安いけど、女性客多いし」


 と、ちょうど“グルシロ”の看板が目に入る。

 カロは特にこだわりもなかったので、勧められた通りそこに入ることにした。


 店内は思っていたよりもずっと広く、1人客からカップル、親子連れまで老若男女問わず服を見て回っていた。


「んじゃ、30分後、試着室前集合で」


 すると、店に入るなり松永はそう言って、”グルシロ”初入店のカロとシズクと2人を取り残し、スッと奥の方へと消えていってしまった。


「え?」


 呆然と立ち尽くす、カロ。しかし、ずっと入り口にいるのも邪魔なので、


「……じゃあ、行くか」


 と、シズクを連れて、ひとまず女性服が売っていそうな方へ向かうことにした。


「さて、どうしたものかね……」


 元々シズクの服を買いに来た、とはいえカロは自分の服すらまともに店頭で選んだことがなかったから、どう手をつけるべきか悩んでいた。


 そこで、カロはシズクをじっと見て考える。


(……そうだ。こいつが着てるところを想像しよう)


 すると、カロは徐に薄紫のブラウスを手に取り、チャックを首まで上げている黒ジャージ姿のシズクと重ね合わせた。


「ふむ。似合うな、薄紫」


 そう呟くと、カロは続けて隣にあった薄黄色、モスグリーン、白のブラウスも手に取り、重ねてみる。


「……ふむ」


 不思議そうにこちらの様子を窺ってくるシズクをよそに、カロは目を細め、じっくりと吟味する。


(白は清楚感、黄色は明るさ、モスグリーンは大人っぽい……)


 何周にも渡って、代わる代わるシズクに服を当てるカロ。しかし、ついにギブアップといった感じで「分からん!」と言うと、


「好きな色は!」


 と、シズクの前に4色のブラウスを並べた。シズクはサッと目でなぞると、その中から白を1つを指差す。


「よし、なら次はズボンだな」


 カロがそう言うと、シズクは自分の体を見つめてからハッとして、下着のコーナーへ向かう。が、カロはすぐさまシズクの首根っこを捕まえ、


「そっちじゃない、そっちじゃない! ……そっちは、ネットで頼んであるから」


 と、ズボンやスカートの並ぶコーナーへとズルズル引きずっていった。


 そんなこんなで、服を探して30分。3人は、試着室の前に再集合。


 カロと松永は、渡されたカゴを持って試着室に入ったシズクを待っていた。

 やがてシャッとカーテンが開き、中からシズクが現れる。すると、カロは思わず、


「おおっ……!」


 と、感心してしまった。


 ふんわり袖の白いブラウスに淡い色のワイドデニムを、まるでモデルのようなスタイルに身につけたシズク。

 先ほどまで見せていたジャージ姿や子供っぽい行動とは打って変わって、大人びており魅力的で、その差に風邪をひいてしまいそうになる。


「綺麗だな」


 松永も、そう評価する。まあ、これは服というよりは、元来のシズクの持つスタイルの良さだろう。

 

 シズクは、感嘆の声を漏らすばかりのカロを見る。


「なんか言ってやれよ」


「……お、おう。似合ってる」


 カロが言う。と、シズクは満足そうにフンスッと1回息を鳴らして、再び試着室のカーテンを閉めた。


「ああいう清楚な感じが好みなのか?」


 松永が問う。


「え? ああ、いやいや。上のブラウスははシズクが好きな色らしいから。で、ズボンは、あいつすごい動き回るだろ? だから、デニムの方がいいのかなって」


「それでパンツか。よく考えてるんだな。彼女のこと」


「……パンツ。そうそう、パンツね。だって、着るの俺じゃなくてあいつだし。あいつに合うもん探さなくっちゃ」


 松永は、少し不意をつかれたような表情になる。

 が、試着室のカーテンをぼーっと眺めていたからそんなことには気づかず、今度はカロのほうから尋ねた。


「それより、お前のコーデはどうなんだ? 俺と違って、結構渡してたけど」


「ああ。俺も彼女が気に入るのがあればいいなと思って……」


 と、ちょうど松永がそう言った時、カーテンが開く。


 松永はその姿を見ると、ニッと笑った。


 そして――――カロの頭に稲妻が落ちる。

 更衣室を開け、シズクが見せた格好は――――いわゆる地雷系だった。


 それもよフリフリふわふわではなく、原色に近いピンク色で文字の入ったオーバーサイズの肩出しトップスに、白のショートパンツ。

 それにロングブーツを合わせ、シックだが病み可愛い、地雷系ストリートファッションとでも言おうか。

「かわいい」ではなく、「ぎゃんわいい」という言葉が湧き上がってくる。


 と、次に現れたのは――――。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 明坂区の片隅。1Rのアパートで1人の女性が体を起こす。


「あーあ、休みだからって昼過ぎに起きちまったよ。……もう、今日はやる気起きねえな」


 それは悪霊事件があった日、遠くから高校を眺めていた人物だった。


 デジタル時計は、女性の眠気など気にせず、無慈悲に午後1時の文字を表示していた。


 歯を磨きながら、気怠そうにテレビをつける。その全身から醸し出される怠惰な雰囲気は、彼女の魅力を覆い隠していた。――――が、しかし、その数秒後。


 彼女はすぐさま着替え、猫の顔のついたゴムを手に取ると、家を飛び出した。


 彼女の見ていたテレビ画面。そこには、『明坂区のショッピングモールで発生した爆破事件』についての生放送が映し出されていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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