11-7 来訪者
「何が……」
旧特魔の地下。
陽華の死体と共に取り残されたアザミの前、1辺が5メートルほどの黒く四角い箱だった。
すると、しばらくしてそれが開かれる。
その中から出てきたのは、カロと地面に這いつくばる岩手だった。
「カロ……!! 何が――――」
「――――殺し続けただけだ。魔力が底につくまでな」
「殺し……!?」
カロの言う通り、目の前の岩手にはもう魔力は残っていなかった。それどころか足を潰されて、回復もできないようだった。
「どうして……!! 同じ禁書なのに……!?」
ドンッと拳を叩きつける、岩手。すると、カロはその顔を見下しながら、
「最後はお前がやるか? アザミ。――――奪われたものは戻ってこない。だけど、少しはすっきりするはずだ」
と、尋ねた。
憎くて憎くて仕方ないはずの相手。
その命を奪う権利が自分に与えられたというのに、アザミの心は蛇に睨まれたカエルのようにキュッと小さくなって怖気付いてしまった。
「そうか。……なら、俺がやる」
「……っ! 殺さなくたって」
「ダメだ。殺す。禁書を使ったから分かる。これに飲まれたやつは、枷なんかじゃ押さえつけられない。殺すか、所有者を移すかだ。そして、所有権の放棄をこいつは拒否するだろう。――――だから、殺す」
すると、岩手は腕だけでほふく前進しながら、
「ボクは……! ボクは間違ってなかったはずだ……!! 禁書、もっと寄越せ……! 命でもなんでもやるから、こいつを殺させろ……!!」
しかし、禁書《嫉妬》は答えない。そして、代わりにカロが岩手の頭を掴んで、
「ああ。岩手隊長、あんたは間違ってない」
と言った。
カロがパッと手を離すと、黒い魔力の霧が岩手を吊り下げ、十字架に縛り付けたように腕を広げてその場に浮かばせる。
それから、カロは黒く染まったムチを出して、力を貯めるようにぶんぶんと振り回し始める。
「でも、正義と正義がぶつかりあったなら、勝った方が正義なんだよ。そう教えてくれたのは、あんただ。あの手この手で俺たちを追い詰めようとした、あんただ。だから、嫌なら勝つしかない。――――この世は、結果が全てなんだ」
「……ッ、ぅうぅうううううううッ……!! 応えろ、禁書!! 認めない!! このままじゃ、終われない……!!」
赤子の駄々のような、獣の威嚇のような、きっと動物という人間が本能的に兼ね備えているであろう唸り声で、岩手は抵抗する。しかし、いくら暴れても、自分を縛り付ける黒の魔力の霧はびくともしなかった。
その時、カロのムチが持ち上がる。そして、
「地獄で会いましょう。――――岩手隊長」
その言葉と共に、それは振るわれた。
禁書《嫉妬》が地面に落ちる。
遅れて、ゴトッという鈍い音が2つ響くと、岩手の真っ二つになった死体は黒い魔力となってさらさらと空気に消えていってしまった。
「やった、のか……。本当に、殺したのかよ……」
アザミは、理解が追いつかない様子でそう呟く。その瞳の中で、カロは寂しそうな目をしていた。
すると、今度はあたりに拍手が響く。音の発生源は、上だった。
「いやあ、見事見事。禁書《妄信》を、あんな簡単に使いこなすとはねえ……」
一斉にカロとアザミが見上げると、赤い髪の下で男が怪しく笑った。そして、その背後にはもう1人、眼鏡をかけた黒髪の男もいた。
「お前たちは……」
カロの強い警戒心が、禁書《妄信》の黒い魔力を昂らせる。しかし、赤髪の男は、
「おおっと! やめてくれよ!! 俺たちは、お前を迎えに来たんだ!」
と、降参のポーズをとった。色気のある香水が、むんと香る。
「迎えにきた?」
カロが尋ねると、赤髪の男は後ろの男を紹介してこう言った。
「こいつの名前は、骨喰安久良。――――お前の本当の父親さ、カロ」
その言葉に、カロはひどく動揺する。
「父、親……?」
すると、それを追撃するように、
「そうだ、加那太。と言っても、お前がお腹にいる時に俺たちは生き別れることになったんだ。そこにいる、赤木アザミ――――その母親の手によって」
「……!?」
カロが振り返っても、アザミは「何言ってるんだ? お母様が……?」と答えを持っていないようだった。
「証明する方法ならある。加那太、これが旧特魔のIDだ。結婚した時の写真も挟まっている」
安久良は、そう言って手帳のようなものをカロに投げ渡した。
それを見ると、そこには確かに安久良の写真と個人情報。そして、何より、
「ヒュウガさん……!」
そう、子供の頃に見ていたヒュウガを始めとした、若かりし頃の総司令と思わしき人物や特魔の面々が映った写真があった。その中心にいるのは、もちろん目の前の眼鏡の男、安久良と、
「これが、母さん……?」
おそらく、母親らしき人物だった。
「……加那太、7つの禁書の存在は知っているな?」
カロが確認したであろうことを見届けると、安久良は語り出す。
「その7つの禁書にはこんな言い伝えがある。――――“7つ全ての禁書を集めた時、全ての願いは叶うだろう“と。そんな言い伝えが」
「全ての願い?」
「ああ。母さんを――――神夜を、生き返らせるんだよ。7つ、全ての禁書を集めてな」
「――――ッ!」
自分の目的を告げる、安久良。すると、安久良はカロに手を伸ばし、
「俺と来い、加那太。奪われた全てを、取り戻しに行こう」
そう言った。
「……本当に、なんでも叶うのか?」
カロが問い返すと、
「ああ。なんでもだ」
と、安久良が答える。
その時、カロの脳裏に過ったのは、
――――俺とシズクを特魔から解放しろ。『シズクとの平和な未来』、それが俺からの条件だ。
そうアザミと共闘戦線を組むときに言ってみせた、自分の言葉だった。
もし、その言い伝えが正しいとして、それを手に出来るチャンスがあるならば、カロの答えは決まっていた。
「分かった。ついていく」
その言葉に安久良は笑い、アザミは、
「お前! シズクはどうするんだよ!!」
と、投げかけた。――――が、その直後、カロは一瞬にしてアザミの隣に現れると、
「わがままでごめん。でも、任せた」
そう言い残して、アザミを気絶させた。
その眠った身体を、カロは優しく地面に置く。すると、
「じゃ、行きますか!」
そう赤髪の男が声をかけた。
赤髪の男は、ついでに岩手のそばに落ちていた禁書《嫉妬》を回収しようとする。――――が、その瞬間、男の手をすり抜けて禁書《嫉妬》は、カロの近くに飛んでいった。
「あぁ? 次の主くらいは自分で選ばせろってか? ……ま、いいや。じゃ、それは小僧が持っといてくれよ」
そう言うと、赤髪の男は先に退場する。それ見て、安久良が、
「俺たちも行こうか」
と提案すると、カロはその手と取って旧特魔を後にした。
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