11-6 ブラックボックス
「まさか、禁書《妄信》か……!? いつの間に!?」
岩手は禁書《嫉妬》を携えているのにもかかわらず、狼狽えていた。
目の前の霧が晴れると、カロは黒い魔力を纏って現れる。そこにもう、子供らしい面影はなかった。
「怖気付くな……! 相手は右手1本だ……!! たかが子供1人が、禁書を手にしたところで――――」
その時、龍のような渦となって、黒い霧が岩手に襲いかかる。と、岩手はそれを横に躱し、それから、
「《魔術:強化》」
と、カロに向かってものすごい速さで進んでいく。
が、一方で、カロは冷静なままで、
「カロ、アイの魔力は霧で粉塵で粒子だ。どこにだって入り込めるし、何にだってなれるよ。だから、もっと解釈を広げるんだ」
と、アイポニーからレクチャーを受けていた。
「なるほど……」
カロはその言葉を確かめるように、スッと手を前に出すと、
「凄い。頭の中に、魔術が流れ込んでくる」
と、感心しながら、
「《鳥籠》」
と、唱えた。
すると、黒い霧の漂う空間に入った瞬間――――小さな鳥籠のような檻が地面から生えてきて岩手を襲おうとした。
これは以前、カロの叔父が見せた魔術だった。しかし、カロのものは極度に小さかった。
何度も進路上の地面から現れる鳥籠は、出現する直前に足元に溢れている魔力が畝る癖があった。それを岩手は理解して見切ると、星座を結ぶようにカクカクと曲がりながらカロに迫っていく。
そして、弾丸のように素早い塊となって、カロの目の前に現れた。――――その時だった。
「《牙》」
足元から、棘山のような突起が飛び出てきた。
それは、岩手の体を貫くには十分だった。――――が、岩手はそれすらも、カロの後ろに回り込んで躱した。――――と、思っていた。
次の瞬間、振り切った拳の先にカロはいなかった。
カロはしゃがんでいた。それも、右手を自身の左に構えて黒い刀のようなものを握って。
「――――《銀牙万咬》」
その言葉を聞いた直後、岩手は吹き飛ばされる。
が、宙でくるっと回ると、
「……ッ、《O・リフィス・禁書形態》ッ!!」
と、自身の傷を元に戻して、なんとか体制を立て直す。
(ボクが、骨喰加那太や赤木アザミのように何かを出力する魔術を持っていれば、もっと禁書《嫉妬》を上手く使えるのに……!!)
そして、カロを睨み、
(だが、そうを言っても仕方ない! この身に残っている魔力で、奴の頭を殴り砕く!!)
そう、算段を立て突っ込んだ。――――しかし、それはすぐに潰えることとなる。
「ちなみに、さらにアドバイス♪ 《嫉妬》の能力では、他の禁書の魔力は吸収できないよ♪ だから、存分に魔力をぶつけてやるといいさ」
「ずいぶん高待遇なんだな」
「ああ。――――アイは、君の可能性が見てみたくなったからね」
「なら、見せてやるよ。――――《鳥籠》……。いや、もっと上だ。――――《棺》」
その会話の直後、カロの目前まで迫っていたはずの岩手は――――真っ暗な空間に閉じ込められた。
▼ ▼ ▼ ▼
拳が空振る。
そこは、足元に黒い魔力の漂う光のない空間だった。
「ここは――――」
岩手は辺りを見回す。目の前にはカロもおらず、まるで視界を奪われたようだった。すると、そこに、
「――――《魔蜘蛛姫ノ手鏡》」
という声が響き、直後――――暗闇の中からいくつものカロが現れて、岩手に襲いかかった。
(糸人形……! だが、骨喰特等本体と比べて、他の人形たちは攻撃力はないはず。ならば――――1度全て受けて、本体を探し出す)
岩手はグッと体に魔力を宿して亀のように固く防御姿勢を取ると、左肩を殴られる。
(重い……! こいつが、本体――――)
しかし、その直後――――別のカロが正面から繰り出した蹴りの重みを、岩手は確かに喰らった。
「――――ッ!? こっちも!?」
それをきっかけに、岩手は4人のカロからボコボコにされる。――――が、その中で、なんとか一矢報いて4人のうちの1人を蹴ることができた。そして、岩手はその正体を目にする。
「黒い、霧……!」
解けていく、糸人形のカロ。その中から現れたのは、禁書《妄信》の黒い魔力だった。
(まさか、本来は空洞であるはずの糸人形の中に、黒い魔力を詰めて本体と変わらない重さと感触を生み出していたのか!!)
しかし、その答えに辿り着いた瞬間――――意思とは関係なく、岩手の体の中に糸人形の中に入っていた黒い霧が吸い込まれる。
と、直後、岩手の体から皮膚を突き破るように棘が出た。陽華が、岩手と戦ってすぐに見せたあの魔術だった。
「がっ、これは――――」
岩手は自身の魔術でなんとか回復して、体勢を立て直す。
「――――しかし、回復してしまえば、体から魔力は!」
そうして、岩手は何度も死にながら残ったカロを倒し切ると、
「どうだ、これで!!」
と、言ってみせた。――――が、その希望を打ち砕くように、どこからかカロが響く。
「気づいていないのか? 足元の魔力が競り上がってきていることを」
すると、今度は胸元まで上がってきていた魔力が、自分を締め付け、下半身を押し潰した。
それでも再び回復し、膝に手をついて息を吸い込んだ時だった。
――――動き回らせ、息を切らせる。そして、霧よりも細かくしておいたその禁書の粒子を体の中に取り込ませ、一気に爆散させる。
という、陽華と対峙する中で自分が分析した結果を思い出して、岩手は口を塞いだ。
しかし、もう遅かった。
また体の中から棘が出て、岩手は死ぬ。生き返っても、今度は魔力の渦に包まれて死ぬ。さらに生き返っても、吸い込んだ魔力のせいで体から棘が出て死ぬ。死ぬ、死ぬ、死ぬ……。
そうして無数に続く死の螺旋を、カロは闇の中から見つめていた。
「お前は、魔力尽きるまで永遠に死に続けるんだよ」
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