10-4 当主戦挙
そこは、深い森の開けた草原だった。
辺りを、闘技場のようにぐるりと大きなムカデが囲っている。そして、ムカデたちの中には、5人の子供たちが点在していた。
「これより、岩手家当主を決める当主戦挙を始める。――――決着は、最後の1人になるまで。魔術は無制限」
夜が更け、篝火に火が灯る。福寿がそう宣言すると、
「最後の1人?」
と、1番背の高い子供が聞いた。その子供は、綺麗な身なりをしていた。
「魔術の実力を見せつけろってことなら、別に降参って言わせるてもいいんでしょ?」
背の高い子供は、得意げに言った。負ける気は微塵もなかったようだ。しかし、それを制すように、
「ふん。殺すまでやってもいいんだがな」
と、おかっぱ頭の子供が言った。
「なんだと!? なら、まずはお前からだ!!」
「バカが。無駄に魔力を使うわけないだろう。バカが」
「バカって2回も言ったな! てめえだけは、ぜってえ俺が倒す」
背の高い子供とおかっぱ頭のやり取りは、周りを置いてヒートアップしていく。すると、それを側から見ていた強気な少女が、
「くだらねえ。さっさと始めよーぜ」
と、言った。
「メルも賛成でーす」
強気の女に続いて、ふわりとしたスカートを履いた可愛らしい少女もそう言うと、福寿は「よかろう」と答え、
「――――始め」
と、手を振り下ろして合図した。
初めに決着がついたのは、背の高い子供とおかっぱ頭だった。
「だりゃっ!!」
背の高い子供の拳は脅威的な破壊力で地面を凹ませ、おかっぱ頭に襲い掛かる。――――しかし、おかっぱ頭は1度は《魔術:障壁》を砕かれるも、次はそれを躱した。
やがて、背の高い子供の魔力が切れる
「あれ……?」
すると、おかっぱ頭はその機を逃さず、
「自分の魔力の残量すら、分からないのですか?」
と、背後に回り、蹴りを脇腹に当て、背の高い子供を地面に転がした。
「くそ……!! お前、俺より魔力ないくせに」
と、背の高い子供が言うと、おかっぱ頭は、
「魔力は使いようなんですよ」
と、告げ、それから、
「さ、降参を宣言してください」
と、促した。
「……わーったよ。降参、降参」
背の高い子供が宣言する。それを見たおかっぱ頭は、
「脱落でいいですね」
と、福寿の方を振り返った。しかし、福寿は、
「殺せ」
と、ただ冷酷に答えた。
「え……」
その言葉に、おかっぱ頭が硬直する。そして、もう1度背の高い子供を見下した時、
「殺しなんて、そんなっ――――」
と、言いかけて、腹から血を撒き散らした。
「へっ……?」
おかっぱ頭は、腹から飛び出たナイフを見る。
「な、なんで……」
「だめですよ。《魔術:障壁》は常に張っておかないと」
おかっぱ頭が振り返ると、そこにいたのは、1番年下の――――岩手紫衣羽――――6歳の子供だった。
1番年下の子供は、蹴っておかっぱ頭からナイフを抜くと、続いて、
「ま、待てよ……!! 何してんだ、お前――――」
「――――待たない」
と、地面に這いつくばりながら命乞いをする、背の高い子供にもナイフを突き刺した。
そこに、感情などない。山の中で、もうずっと慣れ親しんだ感覚だった。
再び1番年下の子供は闇に溶け、存在を消す。
すると、そのもっとずっと後で、おままごとのようにやり合っていた強気な少女と可愛らしい少女が、男の子2人が静かになったことに気がついた。
「……ねえ、あれって」
そして、血の流れているその惨状を見て、可愛らしい少女が悲鳴を上げた。
「なんだよ、あれ……!! 死んでるのかよ……!! なあ――――」
次の瞬間、可愛らしい少女は死んでいた。1番年下の子供が馬なりになって、首を掻っ捌いていた。
「――――あ」
見つかったというような、子供らしい声。しかし、その顔には血が飛び散っていた。
「……な、何してんだ、てめえは!!」
直後――――1番年下の子供に、強気な少女の蹴りが入る。それは、未熟ながらも魔術で強化された強力なものだった。
ぬいぐるみのように軽々しく飛んでいった1番年下の子供は、しばらく息ができなかった。すると、今度は強気な少女が1番年下の子供の上に跨って、その首を絞めた。
「何って、ゴホッ、なんだよ……。殺しただけじゃないか……」
「なんで殺したって聞いてんだよ!!」
「福寿様が……っ、殺せと……。っ、言ったから……」
「それだけで……。それだけで、あいつらを殺したのか……」
「最後の1人にならなくちゃいけないんだ。負けるわけには、いかない」
「負ける……?」
その言葉を聞くと、強気な少女の首を握る力がぐっと強くなる。
「そんなの、殺すほどのことじゃないだろ!! 何度だってやり直せる!! 負けたって道は続いてくんだよ!! あいつらには、未来があったんだ!! 悲しむ人だっているんだ!! それを、お前はあいつらから全て奪ったんだぞ!! クソガキ!!」
「……っ、そうかよ。――――ボクには、いない。悲しんでくれる人なんて」
「なら――――死ね。誰も悲しまないなら、さっさと死んじまえ。あの世で、あいつらに謝ってこい!!」
強気な少女の魔力が荒ぶる。1番年下の子供は、のけ反り目はこぼれ落ちそうなほど剥き出しになった。――――が。
「……死ぬ? 家族がいないから? 悲しむ人がいないから?」
そうぽつりと呟くと、1番年下の子供の手は強気な少女の《魔術:障壁》に触れた。
「そうじゃないだろ。――――逆だよ、逆……!!」
そして、《魔術:障壁》に触れたその手は段々と力強く鷲の爪のように怒っていくと、1番年下の子供からは赤い魔力が漏れ始め、
「みんな、今まで幸せだったんじゃないか。幸せに生きてきたんじゃないか。当たり前に温かい飯を食って、当たり前に話をできる家族がいて。――――だったら、次はボクの番だろう。ボクが、幸せになる番だろ」
そう言って、ついに強気な少女の《魔術:障壁》を砕いた。
その勢いのまま、今度は反対に1番年下の子供が強気な少女の首を掴む。と、最後に、
「死ねよ、お前……!! ボクの人生から、いなくなれ!!」
そう叫んで、強気な少女の首はぼきりと折れてしまった。
「――――よくやったな」
全てを終えると、福寿が子供に声をかけた。当然、生き残ったのは1番年下の子供だった。
「……1番上の子は12歳だった。褒めて伸ばすよう親に命令を出し、その通り得意なものを得意なだけ伸ばした。――――2番目の子は、10歳。厳しく育てるように言った。故に、自分にも他人にも厳しく、平均的に伸びていった。――――3番目と4番目の子は、8歳。双子だった。片方は、片親に育てさせた。故に、魔術の訓練時間や質自体は少なかったが、魔力を産むために必要な感情がよく育った。もう片方は、一族の1人に身分を隠して特魔の人間と結婚させ、産ませた子だった。さすがと言うべきか生意気にと言うべきか、礼儀正しく気高く育った。――――が、生き残ったのは、紫衣羽。お前だった」
死体を眺めながら、福寿が語る。
「……どうして、ボクにだけ家族がいないんですか?」
その背中に、ぽつりと子供が呟いた。すると、福寿は冷めた目のまま、
「殺した。この計画のために」
と、言った。
「……!」
「さあ、そんな些細なことはどうでもいい。当主の就任式を始めよう」
すると、闘技場の真ん中、辺りを囲っていたムカデたちが、死んでいった当主候補の子供たちを回収して吊り下げる。そして、それぞれの血が酒の入った盃に落ちると、福寿はそれを子供に差し出した。
「飲みなさい。岩手家の当主は、その地に宿るすべての因果と因縁を背負って生きねばならぬ。これを飲むことは、その決意を証明する」
子供は何も言わずにそれを受け取ると、一気にそれを飲み干した。
その様子を見届けると、福寿は子供の前に跪いた。そして、
「紫衣羽様。これにより、あなたが岩手家当主となります。私は、1家臣となりてあなた様と岩手家の繁栄に尽くす所存に――――」
と、語り出す。――――が、その途中だった。
福寿の眺めていた地面に血が滴る。ただし、それはどの子供の血でもなく、自身の血だった。
「何を……」
見上げた福寿の目に映ったのは、涙を流しながら福寿を刺す子供――――紫衣羽の姿だった。
「ボクが当主なんだろ? 復讐を果たさなきゃいけないんだろ? ――――なら、あなたもいらない。親を殺していたとしても、あなたに認められて喜んでしまった。そんなボクも、いらない」
すると、その様子を見て、福寿は嬉しそうに笑い出す。
「……っ、ふっ、ふはははははっ! 実ったか!!」
そして、
「忘れるな、紫衣羽。お前のその欲は、飢えは、苦しみは、特魔を壊すまで終わらない。赤木家と骨喰家。奴らを1人残らず、殺すのだ」
そう続けると、最後まで高笑いをしながら串刺しにされる体をなすがまま受け入れていた。
全てが終わると、その場に座り込む、紫衣羽。
すると、それを遠巻きに見ていた男が、
「……福寿の爺さんより、あっちの方が面白そうじゃん」
と、赤い髪を靡かせて笑った。
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