9-end 好敵手
「くらっしゅ」
弾丸にも勝るスピードと強烈な拳を持って不意に現れたシズクの言葉が聞こえた時、レンはもうその場にはいなかった。
シズクの拳はレンを的確に捉え、豆腐のような脆ささえ感じさせた。
「――――ッ!? シズク!」
だが、一方でシズクも地に寝そべっていた。
別に捨て身だったわけでも地面を泳ごうと血迷ったわけでもない。
カロが駆け寄ると、その原因は明らかだった。無かったのだ、足が。
「カウンター、貰っちゃった」
戦士としての意地か本能か、あの一瞬でレンは少なくとも相打ちになるように攻撃を繰り出していたのだ。
「痛くないか?」
「うん」
それを確認すると、カロは安心したように息を吐いて、それから、
「よく頑張ったな」
と、シズクをお姫様抱っこで持ち上げた。
「カロ、私……」
見上げたその表情を見て、シズクは何かを察したように話そうとする。が、カロは、
「その体じゃ戦えねえよ。休んどけ」
と、シズクをまだかろうじて無事だったソファーの上に寝かせた。
腕の装備を外していく中、シズクは、
「……カロ、私、足手纏い。分かってる。でも、忘れないで。私たちは帰るのも――――」
と、言葉を紡ぐと、最後には不安そうな表情をした。
その頬を、カロは優しく撫でる。
「――――ああ、分かってる。必ず、戻ってくるから」
しかし、その言葉を信じるよりも、手が頬から離れる時にシズクはカロの中に危うさを見て、思わず手を握ってしまった。
引き留められたことに一瞬目を丸くする、カロ。
けれど、ぐっと何かを噛み締め、不器用に笑うと頷いて、シズクの手をスッと優しく下ろした。
▼ ▼ ▼ ▼
「……これでよし」
ガシャンッ――――ロビーからいくつも壁を破った先の廊下、カロは転がっていたレンに枷をつける。
「さて、陽華さんのところへ行くか……」
カロは左手が動くのを確かめると、
「よし」
と、歩き出した。
しかし、しばらく進み、電気の消え切った廊下に差し掛かると、カロははたと歩くのを止めた。そして、
「……結局、こうなるか」
と、影の中から現れたその姿を見て、そう呟いた。
真っ暗な廊下。壁から覗くちぎれた電線が――――リトリーの顔をバチバチと照らし出す。
「随分、暴れたみてえだな」
「どちらかといえば、彼女がですがね。おかげで、増やしたコインがまた1枚になってしまいました」
「刀は?」
「折られました」
「……やっぱ、あいつ化け物だな」
リトリーはネクタイを結び直し、反対にカロはネクタイもジャケットも脱ぎ捨てる。
「さっきのを勝ちとしたら、魔石具工場でボコボコにされたのを入れて1勝1敗ってとこか。それとも、俺の2敗か?」
「2分けでいいでしょう。殺し合いは、死ななければ勝ち負けはつきませんよ」
「確かに。じゃあ、やっぱり――――決着をつけなくちゃ、だよな」
「……ええ」
陽華の元へ向かいたいカロと、岩手の元へ行かせたくないリトリー。けれど、そんな本来の目的でありながら建前のような理由は、要らなかった。
殺し合うだけだ。
両者の視線が、闇の中で一際大きな火花を放った。
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