9-1 どちらかが死ぬまで
「ようこそ」
旧特魔の跡地。
リトリーに案内された先――――階段を降りたところで待ち構えていたのは、レン、ルイス、そして岩手派閥総大将の岩手紫衣羽だった。
そこは、かつて2つの禁書が封印されていた部屋。――――の、さらに地下の広々とした空間。
対峙するのは、カロ、シズク、アザミ、陽華の4人。
両者の間には、今にもどちらかが飛び込んで戦闘が始まりそうな危うい緊張感が漂っていた。
そんな中、ふと岩手が尋ねる。
「……それで、肝心の証拠は?」
すると、それにカロが、
「持ってくるわけねえでしょ。それ取られたら終わりじゃないですか」
と、答える。
「ま、でしょうね。今はそれでいいです。――――真実を知る者がいなくなるなら」
不敵に笑う、岩手。
彼には不満も憤りも、焦りという感情もないようだった。
「あなたの方こそ、他の兵隊は?」
「残りの部隊は、特魔を死守させています。仮にここをあなたたちが抜け出しても、足止めしているうちに我々が追いつく。――――それに、あなたたちは今、指名手配中ですからね。ボクの部隊だけじゃなく、特魔の魔術士もあなたたちを殺そうと戦闘に加わるでしょう。――――つまり、お互いここで殺し合うのが最適というわけです」
「……お互い万全ってわけ」
「ええ。他に確認事項は?」
「無い」
「なら、始めましょうか――――」
すると、岩手はスーツの懐を開け、ボールペンサイズのスイッチを取り出す。そして、
「――――殲滅戦を」
それを、躊躇なく押した。
直後、カロたちの周りの壁、天井、床が――――同時に爆発する。
辺りは砂煙に包まれた。岩手のが押したのは、事前に仕込んだ爆弾のスイッチだった。
「……死んだと思いますか?」
岩手が、リトリーに尋ねる。と、リトリーは首を振って、
「であれば、とっくの昔に死んでいるでしょう」
と、答えた。
直後――――岩手たちは、一斉に後ろに飛び退く。
すると、今度は先ほどまで岩手たちがいたところを、地面から生えた黒い棘が襲った。
「なるほど……。これが、禁書《妄信》の力ですか」
岩手は、砂塵の向こうを睨む。
やがて、姿を現したのは――――禁書《妄信》の黒い魔力の霧に包まれ宙に浮く、無傷のカロたちだった。陽華の前に、禁書《妄信》は浮いていた。
「では、打ち合わせ通り、確固撃破でいきましょう」
カロたちを地面に降ろすと、陽華が言った。――――その、次の瞬間。
岩手の計画にはない爆発とともに、アザミがレンの目の前に現れると、
「あんたはこっちだ」
と言って、そのまま呼び出したハンマーで殴り、壁を砕き、レンを隣の部屋へと吹き飛ばした。
続いて、カロも、
「よお、良い子ぶりっ子! まだ、《魔術:強化》の訓練の時の殴る権利が残ってたよな!」
と、リトリーに投げかけると、《魔蜘蛛の糸》を使って上の階に上がり、
「こっちで続きやろうぜ」
と、提案した。
「岩手様」
リトリーの呼びかけに、岩手は、
「禁書《妄信》との時間は、ボクが稼ぎます。その間に皆、それぞれの標的を始末してください」
と、命じる。
それにリトリーは頷くと、カロの後を追った。
最後に岩手の元に残ったのは、青い髪の少女――――ルイスだった。
「じゃあ、私は……」
と、困惑する、ルイス。すると、同じく残っていたシズクが、
「へーん、しん」
と、徐にポーズを決めた。
が、それは決してふざけたわけでも煽ったわけでもない。
次の瞬間――――シズクの引っ提げていたバックの口が、風でボワッと煽られる。と、中から金属の部品のようなものが飛び出し、シズクの腕に巻き付いた。
「――――戦闘モード、見参」
シズクが、ガンガンッと拳を合わせる。
それは、魔石具工場で襲われた際、咄嗟にシズクが手に取った機械製のグローブだった。
「あ! それ工場から無くなってたやつ! でも、どうして機能を。生体認証は……?」
「カロが改造してくれた。私も使える」
シズクの返答に、ルイスは顔を真っ青にすると、
「盗まれただけでも、レンに怒られたのに改造されたと知られたら……」
と、口を震わせ、それから、
「取り返さなくっちゃ!!」
と、シズクを睨んだ。
「鬼さん、こちら」
シズクが部屋を出ると、ついに部屋には陽華と岩手だけになった。
すると、しんとした後で、ぽつりと陽華が尋ねた。
「2つほど。――――どうして、あの母親は半田レンの提案に乗ったのですか? そして、子供はどこへ消えたのですか?」
「……あの母親の子供は死にました。確か、私と出会うほんのちょっと前のことだったそうです。裕福ではないものの、幸せに暮らしていたそうですよ。それで、やって来たんですよ。自殺の名所と呼ばれる場所に、ね」
「……」
「ボクはもちろん助けましたよ。首を括ったその後で。それで、斑目工業の主催するうつ患者の集まり――――自助グループに参加することを勧めたんです」
「……明坂ストリートのそばにあった、あの教会ですか」
「ええ。そして、そこで妄想を見せました。魔石の力を使ってね。でもね、彼女は終わった後、いつも悲しそうな顔をするんです。子供に会いたいって。――――だからボクは教えてあげました。あなたが生きている限り、そして子供が死んでしまった以上。その感情は一生消えないって」
「……」
「だってそうでしょう? そしたら、彼女もう1度死のうとして……。だから、提案したんですよ。――――借金も全て肩代わりしてあげる。現実に残した負目は全て取り払ってあげる。その代わり、1つだけお願いを聞いて欲しいと」
「それが、あの爆破……」
「ええ。痛みを乗り越えるには、現実を変えるか逃げるか。だけど、変える現実が彼女にはない。――――なら、死だけが痛みから解放をされる唯一の道です。――――それからというもの、彼女の妄想は子供と過ごした日々を振り返るものから、天国に待つ子供と過ごす未来への希望に変わっていったそうです。最後の手紙を見れば、彼女が希望に満ちていたことが分かるでしょう?」
「……そうですか」
「本当、律儀な人でした……。あ、そういえばあの手紙って燃やしたはずなんですけど、どうやって手に入れたんですか?」
「……禁書《妄信》の力を借りました。現実に存在していたものなら、私の持つ魔力だけで簡単に蘇らせてくれましたよ。存在が消えてから期間が空いて無いのも幸運でした」
「それで、証拠を《魔術:障壁》で包み、《魔術:浮遊》で飛ばしたと……」
「ええ。思い出の場所くらいなら、いつだって――――」
すると、陽華の前に浮いていた禁書《妄信》がパラパラとめくれ出す。そして、陽華は、
「――――さて、御託はいいですか? 我慢するのも限界です」
と言うと、
「不安定な人間の心に漬け込み、死を未来や希望と見せかける。――――死んだ方がいい。あなたという人間は」
と、岩手を睨んだ。
「ボクもそう思います。――――ただ、それよりこの汚れたこの世界のほうが、もう少しだけ滅んだほうがいいだけで」
それに応えるように、岩手も構える。
さあ――――最終決戦の始まりだ。
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