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【4000PV 感謝】カロ - 黒魔術の子 と 人形少女 - 【第1章・第2章 完結済み/第3章 2月23日~(前倒しの可能性有り)】  作者: 誰時 じゃむ
2章 - 第8話 嵐の前の静けさ

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8-6 それぞれの夜

今朝、更新した”8-7”を"8-6"に統合しました。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 シズクのドアップと、その奥に木造の天井。――――カロは反射的にハッと体を起こすと、シズクのおでことゴチンとぶつかった。


 そこはベッドの上だった。


「カロ、起きた」


 おでこを右手で押さえて痛がるカロとは対照的に、全く平気そうな態度でシズクは廊下の外へと走っていく。


 すると、少しして陽華を連れて戻ってきた。


 陽華は椅子に座ると、ゆっくり話し始めた。


「今までよりも多く魔力を受け取ったことで、一時的に魔力量をセーブする機能が麻痺して空っぽになるまで使ってしまったのでしょう」


 ベッドに座ったまま説明を受ける、カロ。すると、今度は、 


「あの時、何をしたのですか?」


 と、自分が説明を求められることになった。


「えっと……。今日のコアの移植で、俺が魔力を使い果たしてもシズクに影響が出なくなったから、それならコントロールできる量まで余分な魔力を減らしてみようかなって……。じゃないと、加減が難しくって……」


「つまり、ポッドからコップ1杯分のコーヒーを注ぐのではなく、ポッドの中に入ったコーヒーを捨ててコップ1杯分のコーヒーだけポッドの中に残した。……ということですか?」


「そう、です。……うん、だと思います。そうでもしないと、溢しちゃったり逆に足りなすぎたりって感じで……」


 カロの感覚的な解説に、陽華は難しい顔になる。


客1人(1つの魔術)のためにそれをするのは、あまりに非効率すぎる。しかし、感覚を掴むためには、それも必要なんでしょうか……)


 以前も言った通り、ここまで糸魔術を極めた魔術士はそうはいないし、そもそも陽華もアザミも糸魔術に精通しているわけではない。ともすれば、余計な口を挟むのはむしろ鍛錬の邪魔となってしまうだろう。


「……とにかく、今日は魔術を使うのはやめてください。左腕も治したばかりですから」


「え? あ……」


 カロが左手を動かしてみると、元の時と同じように動く。


「幸い、ちぎれた箇所同士を補修するだけで済んだので」


 すると、陽華は役目を終えたと言わんばかりにスッと椅子から立ち上がり、


「さ、ご飯の時間にしますよ」


 と言って、廊下に出ていった。


「……なんか、親みたい」


 そう呟くと、シズクもこくりと頷いた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 食事終えると、そこからは各々の時間だった。


「……アザミ、組み手をしませんか? 昼間のでは不満足でしょう?」


 すると、食後すぐ陽華がアザミに声をかけた。


「いいよ」


 アザミもそれを了承すると、陽華は時計を見て、


「では、19時に、庭で」


 と、約束を取り付けた。


 一方で、カロも2050年の娯楽に溢れる世界からこんな片田舎のポツンと一軒家に連れてこられても特にすることはなく、とりあえず外に出て肺いっぱいに空気を吸い込んでみることにした。


「んで、シズク。体はどうなのよ」


 深呼吸を終えて振り返れば、そこにはシズクがいた。シズクは、


「万全」


 と、力こぶを作ってみせる。


「陽華、言ってた。充電満タン、1週間は持つ」


「おお。そっかそっか。で、あの充電用の魔石は?」


「持ってる。他の魔石さえあれば、私でも充電できる。陽華、教えてくれた」


「そりゃ便利でいいや」


 すると、どんな想いを抱いていたのかは分からないが、


「カロ、私、変わらない。カロについていく」


 と、シズクがふと口にした。


 それは、シズクなりの気遣いや決意のようなものだったのかもしれない。繋がりが無くなってしまった2人は、いくら言葉で補っても、もう運命共同体ではないのだ。


 その顔を見ると、カロはふっと笑って、


「……別に変わったっていいんだ。でも、約束は守るよ」


 と、頭を撫でる。――――すると、そんな2人を、風が包んだ。


 ざわっとした芝の騒めきの中、しかし、そこにバタンッバタバタバタンッと扉が風に煽られて何度も開閉しているような違和感のある音を発見する。


 その音につられてカロが振り返ると、やはり離れの倉庫の扉が開けっぱなしになっていた。


 すると、カロはシズクに、


「ついてきてくれるか?」


 と、尋ねた。


「うん」


 シズクが了承すると、2人は倉庫の中を覗く。


「……熊が出たとかじゃねえよな」


 一応見てみるか、と、中に足を踏み入れたカロたち。

 倉庫の中は、昼間とは違いもうすっかり暗かった。当然、電気料金なんか払われていないからスイッチはつかない。


 その時、倉庫の外から風が吹き込んで、奥の部屋にかけられた嬢がガシャンガシャンッと激しく揺れる。 


 そして、風が吹き戻した時、倉庫の中から何か軽いものが転がってきた。


 カロはそれを拾い上げる。と、それは、


「卵の、殻……?」


 と言う以外に見当がつかない、薄くパリパリとしたカラフルな破片だった。


 言ってしまえば、イースターエッグのような感じだ。――――しかし、閉ざされた部屋から飛んできたそれが、ただの卵の殻であるはずがなかった。


 それを捨ておこうとした、次の瞬間――――カロの脳内に映像が流れ込んでくる。


 ――――ヒュウガ! それを持ったままどこかへ逃げて! その子の名前は加那太! 普通の生活を送れるように……! ここから遠いどこかへ旅立てるように……!!


 それは、瞬間的な映像だった。雨の降る中、女の人が確かにそう叫んでいた。


「……今のは!」


 加那太と、確かにそう叫んでいた。自分のことだろうか。だとするなら、あれは――――。


「――――お母、さん?」


 閉ざされた部屋に何があるのか、知りたくてしかたなくなる。


 そして、躊躇わず扉を封じている鎖に手をかけた時だった。――――反対の手を、扉から遠ざけようとシズクが引っ張り返した。


「……シズク?」


「駄目、カロ」


「なんで!」


「怖い顔してる!」


「……!」


 その怯えた表情に、カロはパッと錠前から手を離し、説明する。


「ち、違うんだ。別に禁書の魔力に取り憑かれたとか、そんなんじゃない。……ただ、さっき拾った卵の殻みたいなやつから、記憶が流れ込んできたんだよ」


「記憶……?」


「うん。女の人が、俺をヒュウガさんに託してた。それで、俺の名前を呼んでた。しっかり、加那太って。きっと、本当のお母さんなんだと思う」


「会いたい?」


「……それは、どうかな。でも、知りたいとは、少し思う」


「……分かった」


 すると、シズクは錠前に手をかけ、


「なら、私も一緒に行く」


 と、言った。


「え?」


「2人なら、大丈夫。何があっても」


 その真っ直ぐなシズクの目と目が合うと、カロは、


「……いや、今日はやめておこう」


 と言って、錠前から手を離した。


「いいの?」


「うん。今は、その時じゃない気がする。これで、悪霊とか出てきたら岩手隊長と戦うどころじゃなくなるしな」


 そして、倉庫の出口に向かって歩き出す。そして、


「だからさ、戦いが終わったら、その時は一緒に見てくれよ。その方が、その……。安心、できるからさ」


 その最後に振り返って、そう言った。


「……分かった。――――なら、今回は私も戦う」


「え!?」


「一緒に、でしょ。置いてけぼり、なし」


「だけど……」


「大丈夫。良いもの、ある」


「良いもの……?」


 カロの背を追って、シズクも倉庫から出る。2人の夜を、月は神秘的に照らしていた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 同時刻、裏庭。


 静かなように似つかわしくない、骨と骨、肌と肌のぶつかる音。

 姉妹喧嘩というには洗礼されすぎているそれは、アザミと陽華の組み手だった。


 ルールは、安全のために《魔術:障壁》を使っていいのと武器は有りという縛りだった。


 しかし、そうなると当然有利なのはハンマーを出せるアザミのほう――――の、はずだったが。


「――――うらッ!」


 アザミが、デッキブラシサイズのハンマーを叩きつける。――――が、陽華はそれをバク転で躱わすと、続けざまに飛んできた横振りのハンマーの下を潜り抜けて、アザミの顎の前で蹴り上げた足を寸止めした。


「……参りました」


 ハンマーを消し、両手を上げる。と、アザミはそのまま庭に倒れ込んだ。


 そこへ、少し遅れて陽華がドリンクを持ってくる。


「やっぱ強いね。お姉ちゃん」


 アザミがひょいっと体を起こし、言った。


「強くないよ、別に」


 陽華はリビングに繋がる縁側のようなところに腰を下ろすと、そう返した。


「生得魔術も使えない。権力もない。それに、1度は死にかけて……」


「そういうことじゃないよ」


「……?」


「お姉ちゃんが言ってるのは、才能のことでしょ? でも、あたしが言ってるのはそうじゃない。環境に負けない。出来なくても、別の方法で出来るようにする。最後まで目的のために遂行できる。そういうのも強さなんだよ」


 アザミは夜空を見上げた。そこには、満点の星が広がっていた。


「だけど、どんなにお姉ちゃんが強くても――――あたしね、ずっと頼って欲しかったんだ。守られるんじゃなくて、一緒に戦いたかったし。弱音だって、吐いて欲しかった。一線引いた態度が、気に食わなかったし、寂しかったし、怖かった」


「……」


「……お姉ちゃん、びしょ濡れで帰ってきた日のこと、覚えてる?」


「……もう何度もありすぎて、どれのことだか」


「お父様とぶつかった日のこと。あの時ね、お姉ちゃんを見て、『ああ、ずっと無理させてきたんだ』って思ったの。お姉ちゃんって役割をやっててくれただけなんだって」


「そんなことは……!!」


「ないって、言える?」


 その質問に言葉が詰まる。


「……私は、ただあなたを守りたかっただけ」


「恨まなかったの? ――――当主の座を取った妹を」


「恨まないなんて、そんな聖人なわけないじゃない。歳が上なわけでもない、長男なわけでもない。ただ、才能があるだけで。あなたが生まれてきただけで、私は家族から見てもらえなくなった」


「……」


「私は、少しでも認めてもらうために役目をまっとうしようとした。あなたが私を馬鹿にしてスッキリするなら、グッと堪えて馬鹿にさせた。あなたが才能を開花させたなら、みんなと一緒に祝った。……でも、そのうち自分を殺すのが苦しくなっていって。だから――――あなたを殺すことにしたんです」


「殺す?」


「あなたを家族とは全くも別の、妹ですらない、そういう仕方ない存在だと諦めることにした。そうすれば、私は、かろうじて私でいられた」


「だから、敬語を使うようになったの?」


「そう」


「……そっか」


 静かな時間が訪れる。


 すると、アザミは立ち上がって聞いた。


「じゃあ、あたしを助けようとしたのはお母さんに言われたから? 捕まった時も、工場の時も……」


 それに、陽華は俯いたまま答える。


「……そうじゃない。割り切れるわけ、ないじゃない。私にとって、やっぱりあんたは妹なんだよ」


 その言葉にアザミはニッと笑うと、


「その言葉だけで、十分」


 と、リビングの中に入っていく。すると、その去り際に陽華は、


「今度の戦いは、勝つか負けるか本当にギリギリのところになると思う。だから、頼りにしてる。――――絶対、生きて帰るのよ」


 と、言った。


「うん。――――勝って、生きて帰ろ」


 おやすみ、と告げると、アザミは自分の部屋に戻る。――――そうして潜り込んだベッドの中、アザミは夢を見た。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 それは、成人の儀式の日。

 家族と当主挨拶を済ませたすぐ後のことだった。


 アザミが陽華の他人行儀な態度を受けて、涙を堪えながら早足で自室に戻ると、机の上には手紙が置いてあった。


   × × × × ×


『誕生日おめでとう』


   × × × × ×


 その手紙のそばに置いてあったのは――――猫の飾りがついた黒い髪ゴムだった。



 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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