第1章 プロローグ
プロローグ(本文1070字 )
2050年。
テクノロジーが発展し、街と自然とが共生するようになった国――――環境共生国家“日本“。
街の真ん中には、世界樹のような人工的に発展した大きな木が聳え立ち、街のところどころに植えられた木や花はビルを抱きしめるように枝葉を伸ばしている。
いわゆる、ソーラーパンクと呼ばれる未来に、人類はたどり着いていた。
宇宙からこの星を見れば、ガガーリンでさえ「やはり地球は緑だった」と言うんじゃないかと思わせるような、今日この頃の地球。
そんな自然と技術に溢れた近未来のマンションの片隅で、時代を逆行した古びた箱を手にする、1人の少年がいた。
骨喰加那太。『加那太』の『加』の字をとって、通称、カロ――――にわか黒魔術師である。
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いくつかの古びた本と、瓶に詰められた怪しげなあれやこれやに囲まれた、四畳半。
野暮ったく伸びた黒の髪、その下で鋭く赤い瞳を輝かせるのは――――カロこと骨喰加那太――――陰気な17歳の少年であった。
カロの目の前には、厳重に朱色の紐で包まれた古風な木箱が置かれていた。どうやら、叔父から送られてきたものらしい。
「ヒュウガさんからってことは、魔術関連か……? あ! もしかして、いらなくなった道具とか!?」
しかし、その叔父はほんの数週間前に死んでしまった。
カロが17歳、叔父が50歳でのことだった。
挨拶なさい、と母に促されて覗き込んだ棺の中の叔父は、頭の中の人物よりもずっと細くて、ずっと頼りなくて、ずっと年老いていて、ずっと弱々しかった。
それが、死を実感させ、少し寂しかった。
気づけば部屋の中でポツンと1人、カロは下を向いていた。
「あー、もう!!」
自分のナイーブさに嫌気がさして、髪を掻きむしる。
カロは、まだ叔父のことを自分の中で消化できていなかった。
――――ブチッ……! ブチ、ブチッ……!
そう、傍らから聞こえてくるその聞き馴染みのない音にも――――気がつかない程度には。
「……ん?」
――――ブチンッ!!
一際大きな音がして、木箱の上蓋が吹き上がる。
と、上蓋はカロの顔面に向かって思いっ切り突っ込んだ。
「――――ぶっ!!」
すると続けて、箱からは細かな粒子が小さな竜巻の流れに乗って飛び出してくる。
そして、中央にはカロの瞳と同じ赤い球が浮かび上がった。
「なっ、なっ、なっ!」
驚きが大きすぎて、頭の中に渦巻くものが言葉にならない。
そして、困惑も束の間、
「だ、誰だお前は!」
絹のように艶やかな薄紫の髪、死者のように冷たく透き通った水色の瞳、陶器のように美しい白い肌。
目の前に現れたのは――――。
「……」
――――何も語らぬ、美少女だった。
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