偽りの暴君
健二が雷火国に広めた悪名は、瞬く間に国中へ広がった。
過度な徴税、不自然な貴族の昇進、民への弾圧――
かつて民の英雄だった男は、今や「雷火の暴君」として語られるようになった。
だが、それは彼自身が選んだ道。
腐敗に傾きかけた雷火国に、自ら“毒”となって潜り込んだのだ。
彼は知っていた。
この国が真に強くなるには、一度「本物の悪」を自らの手で断ち切る経験が必要だと。
そして、それを誰よりも清らかな者に託すべきだと。
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闘技場にて
雷火の首都。白鋼の円形闘技場には、数万の民が集まっていた。
彼らの前に現れたのは、全身に雷を帯びた、異形の鎧を纏う男。
「雷火王・健二」――最後の戦い。
民の歓声でも、罵声でもない、沈黙が場を支配する。
かつて憧れ、いま憎み、それでも目を離せない存在が、そこにいた。
対峙するのは、健二の子ら――
長男カズマ。剣を振るう若き王子。
長女マユ。戦術と気脈の使い手。
三男レイ。弓と影の技を継ぐ者。
そして、末娘のナユ。かつて健二が可愛がっていた少女。
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雷火解放――鬼神の如き健二
号砲とともに始まった闘い。
初手。健二の**雷火解放**が炸裂。
大地が割れ、空気が焼け、瞬く間にカズマたちは吹き飛ばされる。
「くっ……! やはり、“今でも”強すぎる……!」
カズマの声に、健二は低く笑った。
「“まだ”なだけだ。俺はもう終わる。お前たちが継げ」
次の瞬間、健二が動いた。
あまりにも速い。
すでに常人の目には映らない速度で動き、雷を纏った拳と剣が子らを襲う。
長女マユが結界で防ぎ、レイが援護の矢を放ち、ナユが回復の術を繋ぐ――
だが、どれも健二の“間引いた力”にしか通じていない。
彼は“あえて”急所を外し、“あえて”致命を避け、“あえて”長引かせている。
その意図を、カズマだけが気づいた。
(父は……俺たちに、“殺させよう”としている……!)
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決断の刃
闘いは続いた。1時間。2時間。
健二の動きが、わずかに鈍くなったのをカズマは見逃さなかった。
それは、疲労ではない。
熱と電撃で焼かれた内臓、砕けた骨、壊死しかけた筋肉――限界だった。
カズマは剣を握り直した。
「……父上、覚悟を!」
雷火の剣――父から授かったこの刃に、すべてを込めて斬りかかる。
健二は、笑った。
「――来い。息子よ」
交錯する二つの雷。
最後の斬撃は、健二の胸を貫いた。
静かに、ゆっくりと、彼は倒れた。
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最後の言葉
倒れ伏す健二に、子供たちが駆け寄る。
「父上……! なぜ……なぜここまで……!」
健二は微かに笑い、血に濡れた手でカズマの肩を叩いた。
「お前たちは……“王”になった。
俺はもう要らない。――これで、いい」
そして、最後にナユの頬に触れる。
「……強く、優しく、なれよ」
そう言って、健二は瞳を閉じた。
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雷火の英雄、ここに眠る
雷火の闘技場にて、かつて最強の男はその幕を閉じた。
だが、民は知っていた。
彼が“悪”を演じたその理由も、すべてはこの国のためだったと。
彼の死は、新たな時代を切り開いた。
子らが導き、民が支え、そして雷火国は真に「民の国」となった。
石碑には、こう刻まれている。
> 「英雄 健二 ここに眠る」
雷火の焰を纏い、正義の剣を持ち、命を賭して国を導いた男




