英雄最後の戦い
長年の戦いの果てに得た、穏やかな日々。
だがそれは、確実に彼の命を削っていた。
雷火解放。
その技は、魔術と肉体の限界を超えて放たれる、“電撃と熱の奔流”による一撃。
全身の神経を焼き、脳を過負荷に晒し、骨を軋ませ、関節を削り、
筋肉は瞬間的に収縮・断裂を繰り返し――
雷火解放を繰り返した健二の身体は、もはや「生きて動いている」のが奇跡のようなものだった。
王都の医師たちは診察の後、誰もが沈黙し、頭を垂れた。
リーファでさえ、何も言えなかった。
「……余命、二年もないでしょう。酷使すれば、半年」
医師の声は震えていた。
だが健二は、苦笑するだけだった。
「――そうか。やっぱりな」
その夜、彼はひとり城の高台に立った。
街の灯が遠くまで続き、子供たちの笑い声が微かに届く。
(これが……俺の命で得た国か)
そして思った。
(なら――もう少し、やるべきことがある)
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静かな宣言
翌日。
健二は親しい者たちを集め、簡単な酒宴を開いた。
ライナスとドゥーガン、リーファ、ランドルフ、そして長子から末子まで。
互いに笑い合い、過去を語り、未来を語った。
だが最後、健二は杯を置き、全員に向かって言った。
「……この国には、まだ“膿”がある。放っておけば腐る」
「力を持った者が慢心し、特権階級のように振る舞う者が増えた。
一部の役人は民を見下し、貴族出の若者の中には農民に暴力を振るう奴もいると聞く」
「……だから、掃除をしようと思う。俺がまだ動けるうちに、全部だ」
一同は沈黙した。
だがライナスは、杯を掲げた。
「――やれ。お前が動くなら、俺も動く。弟子として当然だ」
ドゥーガンは重々しく頷き、
リーファは何も言わず、ただ涙をこぼした。
ランドルフ侯爵はしばし沈黙し、そして静かに言った。
「“膿”を出すというのは、内側に敵を作るということだ。
それでもやるのなら、我らは剣となろう。お前の名誉が汚れぬように」
健二は頷き、立ち上がった。
「これは戦争じゃない。だが、命を懸ける覚悟は必要だ。
――この国を、“真に正しき国”にするために」
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こうして、健二の**最後の戦い――「内部浄化作戦」**が始まろうとしていた。
それは、敵国との戦争以上に困難で、痛みを伴うものだった。
彼はもはや、自らの死を恐れていなかった。
むしろ、それが来る前にやり遂げねばならない使命こそが、今の彼を動かしていた。
この先に何が待つのか。
それは未だ、誰にもわからなかった。
だが確かなのは――
雷火の英雄は、最後まで「正しさ」と「強さ」に殉じる覚悟を持っていたということだった。




