雷火の未来
和平締結から20年――
雷火国は、かつて「辺境の火山地帯」と侮られた小国から、今や魔王国と並ぶ二大強国の一角へと成長していた。
その成長を支えたのは軍事力だけではない。
雷火式の学校制度と職人育成機関、農業・漁業・医療の普及によって、民の力そのものが国家の柱となった。
教育を受けた子供たちは、大陸各地に送り出され、講師、建築師、治療師、さらには外交官としても活躍。
特に、かつての王国では「雷火流」の武道と倫理教育が人気となり、幾度となく外交官が視察に訪れた。
他国の子供たちも留学のため雷火の地を踏みしめ、卒業後は皆、こう口にした。
「ここは、正しさと強さを学ぶ国だ」
雷火国は文化の中心地となり、民の心を掴み、戦わずして領土以上の影響力を得た。
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健二の家族
そんな国の礎を築いた男――健二は、五人の子を持つ父となっていた。
長子は剣術と軍略を、次子は農業と経営を。
三人目の娘はリーファと共に魔術を学び、四人目は料理人として人々の舌を掴む。
末子はまだ幼かったが、木剣を振るう姿はまるで父の若かりし頃のようだった。
健二は家族と過ごす時間を何よりも大切にしていた。
時に生徒と語らい、時に農民と共に鍬を握り、夕暮れには子らを風呂に入れ、自ら食事を作った。
彼の名は「雷火の王」と称されるようになっても、民は彼をこう呼び続けた。
「先生」――と。
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影、静かに忍び寄る
だが、歳月は栄光と同時に影をもたらす。
ある夜、健二はひとり城の裏庭に立ち、星を見上げていた。
その右腕が、震えているのに気づいたのは、彼自身だけだった。
かすかな痺れ。
握ったはずの石が滑り落ちる感覚。
背中には、時折刺すような痛みが走る。
医術の発展した雷火国でも、その症状の正体はつかめなかった。
「歳かな」と笑って誤魔化す健二を、ライナスは静かに睨んだ。
ドゥーガンは何も言わず、彼の好物だけを多めに盛った。
そしてリーファは、健二の見えないところで、毎夜治癒の魔術を繰り返していた。
だが――
彼の身体は、確実に何かに蝕まれていた。
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終わりではなく、始まりへ
それでも、雷火国の灯は消えない。
民は力を持ち、知を携え、未来を見据えて歩んでいる。
健二がその背で見せ続けた「正しさと強さ」――
それは子らへ、民へ、世界へと伝わり続けていた。
そしてある日。
健二の五人の子らが、揃って彼の前に立った。
「父上、私たちの時代です」
「どうか、少し休んでください」
健二は、その言葉に少し笑い、こう答えた。
「もう少しだけ、見ていたい。お前たちが、世界をどう変えるのかを」
その背は、いまだ屈せず、まっすぐに空を見上げていた。




