イゼルナ復興と王国との和平
イゼルナ陥落から三日──
雷火国は急ぎ、占領地の安定と戦後処理に取り掛かっていた。
健二の命により、まず最初に行われたのは民の保護と秩序の回復である。
焼け落ちた聖堂の周囲には救護所が設けられ、負傷者の治療と食糧の配給が徹底された。
宗教施設の一部は避難所へと転用され、僧侶たちもまた自ら進んで民の世話に従事した。
健二は「神の否定」ではなく、「神を名乗る暴力の否定」を掲げた。
それにより、信仰を持つ市民からも徐々に理解が広がっていく。
リーファとドゥーガンは医療・魔術の復興に尽力し、
ランドルフ侯爵は地元の有力者たちとの交渉を通じて地元自治組織の再建を主導。
ドゥーガンの冷静な対話と、リーファの真摯な振る舞いが、民心を繋ぎとめた。
さらに、健二は王国貴族が遺棄した兵器庫・財宝を接収し、
その一部を現地復興費に、残りを雷火国の国家予算に回すよう命じる。
雷火国の「戦利」ではなく、「責任」として。
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和平の報せ
そんな中、王国からの使者がイゼルナに到着する。
全身黒装束の護衛に囲まれた老齢の使者は、王印入りの文書を差し出した。
内容は、正式な和平合意と領土の譲渡の提案だった。
イゼルナおよび南方五都市の支配権を雷火国に委譲
神の騎士団を反乱勢力として王国側が断罪することに合意
戦争賠償金の再交渉(減額)を希望
互いの国境を軍事的に中立地帯として非武装化することを希望
文面には「今後百年の平和を」と結ばれていたが、健二はそれを読み終えた後、短く言った。
「百年も要らない。民の明日を壊す者がいなければ、それでいい」
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雷火国評議会は賠償金減額の交渉を受け入れたが、代わりに以下の条件を提示した:
王国の主要都市に雷火国の学校・病院・交易所を設置する権利
民主的な地域自治の導入を王国が妨げないこと
反雷火国思想を煽る教団の弾圧と調査への協力
使者は深くうなずき、和平文書に第二の印を押した。
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こうして長きに渡った争いは、ひとまず幕を下ろすこととなる。
だが、健二の戦いは終わっていなかった。
まだ、教育の道半ばにある子供たちがいた。
まだ、命の価値を知らぬ者たちが、各地に潜んでいた。
戦が終わっても、鍛えるべきものは残されていた。
健二の背中は再び、教壇に向かっていく──
「強さとは、守るためにある」
彼がその言葉を忘れぬ限り、雷火国はまた揺るがぬ柱であり続ける。
イゼルナに、ひときわ大きな飛竜が降り立った。
その背にいたのは、まだ若さの残る男だった。
漆黒の礼装に身を包み、頭を深く垂れている。
彼こそ、新たに即位した王国の若き王――先の戦で退位した前王の甥、ルシアス三世であった。
王都を覆った貴族の混乱、民衆の蜂起、神の騎士団の壊滅。
すべてを経て、彼は「民の王」として即位したのだった。
彼の傍らには、重厚な鉄箱を収めた台車。
それは、和平の証として雷火国へ贈られる賠償金の一部――否、一年分全額である。
本来、三十年かけて支払うはずだったもの。
それを新王は、自らの誠意とけじめとして、一括で納めに来たのだ。
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城門にて
雷火国の首都、雷火城。
王国の新王は、城門前にてひざまずいた。
「この度の愚行の数々、我が王家の責にございます」
「奪われた命、焼かれた大地、歪められた信仰――」
「我が手で正しましょう。貴国の慈悲と導きを、願います」
その声は震えていなかった。
若き王は、恥を恐れず、命を賭けて詫びに来たのだ。
沈黙を破ったのは、雷火国の使者ではなく、城門の上に立つ男だった。
「その姿勢と決意、確かに見届けた。……顔を上げろ」
健二である。
隣には、魔王、ランドルフ、リーファ、ライナス、ドゥーガンらが並んでいた。
雷火国の全てを背負う者たちが、今日この場に揃っていた。
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和平の調印
雷火城の大広間にて、新たな和平文書が取り交わされた。
その中には、以下のような条項が記されていた:
雷火国は正式にイゼルナおよび南部五州の領有を認められる
王国は雷火国の学校・診療所・農業支援拠点を自国内に受け入れる
教団の教義と軍事部門を分離し、信仰の自由と民の保護を優先する
両国間での学生・職人の交換留学制度を設置
今後の賠償は15年での完済に切り替え、今日の支払いを第一年分として扱う
新たな「共同警備隊」を結成し、国境地帯の監視と民間交流を促進する
健二は調印に際して、王に一言だけ伝えた。
「あなたがその志を持ち続ける限り、我々は敵にはならない。
……次に剣を交える時があるなら、それは模擬戦の場にしましょう」
王は小さく笑い、深く頷いた。
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そして、雷火城の空に再び飛竜が舞い上がる。
若き王は自国へと帰り、雷火国には静かな歓声が広がっていた。
長きに渡る争いは、ここに終わりを告げた。
だが、この和平はゴールではない。
民の命を繋ぎ、強さと正しさを教える者たちの、新たな始まりである。




