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復興と神の騎士団残党

戦が終わってから数日。

王国の東部二州には、雷火の軍旗がはためいていた。血と鉄に彩られた奪取ではあったが、その支配の形は恐れられるものではなく、驚きをもって迎えられた。


健二はまず、治安維持部隊を撤収させず、むしろ駐屯軍に地域再建の指導を命じた。

破壊された井戸や水路は軍の手で復旧され、略奪された穀倉には雷火の貯蔵庫から食料が分配された。


「我らは裁くために来たのではない。

 生きる希望を示すために来たのだ」


民は初めこそ怯えていた。だが、

かつて重税と私兵の暴力に震えていた彼らが、雷火の兵士たちと共に笑い、働き、食卓を囲む姿は日増しに増えていった。


雷火国は一時統治評議会を設置した。健二を最高顧問とし、各地の旧貴族の屋敷を接収。そこを臨時の学校と農村行政センターとして再利用した。


授業内容は、雷火国の学舎と同じ──

「生活」「鍛錬」「思考」「正しさと強さ」。

教師は雷火から来た者と、地元で志を持つ民の混成で構成された。


ライナス子爵の剣術道場も早くから開かれ、少年少女たちが汗を流す中、彼は決して笑わなかったが、満足げな瞳を隠しきれなかった。


ドゥーガンは農民の指導を行い、土の扱い、水の通し方を一から教えた。

「支配されていた者は弱いのではない。ただ学ぶ機会がなかっただけだ」

それが雷火国の信念であり、健二の哲学だった。


そして一番変わったのは、言葉と目線だった。


「兵も職人も、学び舎の者も、誰も偉くなどない。

 偉いのではなく、役割が違うだけだ」


そう教えられた子どもたちは、兵士に挨拶し、教師に感謝し、畑を耕す親に敬意を持つようになった。

この変化はゆっくりだが確実に、大地に根を張っていった。


だが健二は知っていた。

この“灯火”を守るには、まだ“闇”が残っていることを。


その影──かつて「神の名のもとに正義を語った者たち」が、未だ王国の奥地に潜んでいることを。


そして雷火は、再びその「正義」と相対することになる。



その報せは、雷火国の首都に届く前に、すでに火が点いていた。


かつての「神の騎士団」──信仰と名誉を掲げながらも、多くの民と異端を虐げた彼らは、敗戦の混乱に乗じて再結集を果たしていた。

宗教都市イゼルナを拠点とし、「堕ちた王国を救済する」として、雷火国が治める旧王国東部州に宣戦布告したのだ。


彼らの旗印は変わっていなかった。

十字と炎、そして「浄化」の言葉。


数千の信徒を動員した軍が、信仰の熱狂と共に雷火の統治地へと迫る。

彼らの目的は明白──

異教の支配者たる雷火国の民を皆殺しにし、土地を“神のもの”とすること。


このとき、健二は魔族領にて技術連携のため不在。

国王の名代としてこの地を統治していたランドルフ・ハワード侯爵が、雷火側の全軍の指揮を執ることとなった。


老侯爵は、即座に民を避難させ、兵を集め、

そして武装した農民や鍛錬を積んだ学生たちを「義勇軍」として組織。

城の周囲に防衛線を築き、時間を稼ぐ策を講じた。


神の騎士団の軍は、冷酷なまでに整っていた。

正規の戦術に、狂信的な突撃、そして異端審問官を名乗る魔法使いたちが雷火兵を焼き払っていく。


だがランドルフ侯爵は怯まなかった。


「奴らに正義はない。

 奪い、焼き、壊すだけの連中に、神の名を騙る資格などない」


かつての外交官でありながら、雷火国の実戦にも身を投じてきた老将は、巧みに敵を引き込み、夜襲と地形の利を活かした防衛戦術を展開した。


神の騎士団の大軍は、初戦こそ圧倒したものの、次第にその動きは鈍り始める。

「戦意なき者は討たず」の雷火軍の精神は、地元民の協力と結束を生んでいた。


そして、学生たちも戦場に立った。

涙を流しながら剣を握り、農具を手にしながらも敵を押し返す。

学び舎で育まれた「敬意」と「強さ」は、彼らをただの子供ではなくした。


やがて、ランドルフは決戦の日を選ぶ。

敵が浄化の儀式と称して大規模な布陣を敷く朝──

雷火国軍は、地下水路を通じて敵の背後を突き、騎士団の中枢に迫った。


老人の声が戦場に響く。


「これは信仰の戦いではない!

 貴様らの“私怨”に神の名を使うな!」


その声に続いた一矢が、騎士団副長の胸を貫く。

信仰が、音を立てて崩れていった瞬間だった。


雷火国軍は、かろうじて勝利を収めた。


だが、それは終わりではなかった。

健二の帰還を待たずして、神の騎士団の“本体”が未だイゼルナにいるという情報がもたらされる。

雷火国の旗のもと、戦火の地に新たな影が落ちた。


健二が魔族領より戻ったのは、ランドルフ侯爵が辛うじて神の騎士団の侵攻を退けた数日後だった。

報せを受けた彼は、即座に現地へ向かい、侯爵から状況の引き継ぎを受けると、部隊再編と共に新たな決戦の準備に取り掛かった。


敵は宗教都市イゼルナ。

かつて王国と宗教の中枢であったその地には、神の騎士団本隊──およそ二万の兵と狂信者が集まっていた。


健二はそれを「浄化」することを宣言した。



---


出撃にあたり、健二は軍を三つに編成した。


1. 飛竜大隊──健二が自ら率い、空より急襲・斬首を狙う精鋭部隊



2. 魔術大隊──リーファが統括し、後方からの広域・精密砲撃を担当



3. 地上部隊──老練なドゥーガンが率い、民の義勇軍と共に前進・制圧を担う




さらに、ランドルフ侯爵は補給と民の保護に徹し、民衆の支持と秩序の維持に力を尽くす役を引き受けた。


健二は飛竜の背に乗り、出陣に際して兵に短く語った。


「この戦に、正義も神もない。ただ…民の命を守る。それだけだ」


その言葉に、兵の顔が引き締まった。



---


決戦──イゼルナ上空


飛竜大隊が、夜明けと同時にイゼルナ上空へ到達した。

神の騎士団は大伽藍を要塞化し、魔法障壁と大量の弓兵で迎え撃つ構えを取っていたが、リーファ率いる魔術大隊が、地形を計算した精密な魔法砲撃で弓兵陣地を次々に焼き払う。


魔導の光が空を裂き、聖堂を穿つ。

鐘楼が崩れ、信者たちの悲鳴が風に乗る。


混乱の中、健二が率いる飛竜部隊が一斉に降下。

その姿は、まさに雷火をまとう龍そのものであった。


健二は真っ先に降り立ち、敵将・神の騎士団団長ルシウス=セレファントと対峙する。


かつて神の名のもとに多くを虐げた男。

今また、神を盾に大地を血に染める者。


「その剣に、祈りは宿るか?」

健二の問いに、ルシウスは怒りを露わにして吠える。


「異端が我を試すか。貴様など、神の火で──」


その言葉の終わりを待たず、健二の拳が炸裂した。

身体強化と魔術による加速を併用した、文字通りの雷撃の一打。

重厚な鎧を砕き、神の騎士団最後の将を、地に伏させた。


「宿らないなら、そんな祈りに意味はない」


一瞬の静寂の後、残された敵兵たちは膝をついた。


こうして、イゼルナは落ちた。



---


健二はすぐに戒厳令を敷き、民の保護を最優先とする政令を出した。

宗教の自由は保証されたが、神の名を騙る暴力は断じて許されぬと布告。


神の騎士団の残党は根こそぎ狩られ、宗教都市は再び「民の都市」として蘇ることになる。


だが、彼の胸中にあったのは勝利の喜びではなかった。

崩れた聖堂の中に、剣を抱いたまま倒れていた幼き信徒の亡骸が、いつまでも脳裏から離れなかった。


「強くあれば、守れた命もある。

 ──まだ、俺は届いていない」


健二は再び、拳を握り直した。


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