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バルムート3世

時は、雷火国からの書状が届けられた翌朝。

王国の王都、白金の間と呼ばれる謁見の広間に、王族と貴族、軍の上層部が一堂に会していた。


玉座の上では、老王バルムート三世が書状を睨みつけている。

手にはまだ震えが残り、目元には怒りとも恐れともつかぬ複雑な色が浮かんでいた。


読み上げが終わると、重い沈黙が落ちた。


だがその静寂を破ったのは、戦を煽っていた南部領主――デュラン公爵であった。


「このような要求、認められるはずがない! なんと傲慢、なんと無礼な!

我が王国の兵五万を打ち破ったとはいえ、賠償金に加え、教育機関への介入だと!?

これは、王国の文化と誇りを踏みにじる暴挙に他ならぬ!」


彼の声に同調するように、数名の貴族が声を上げる。


「雷火国の台頭は許しがたい! 奴らは魔族の巣窟ではなかったのか!」

「新興国が王国に命令するとは……侮辱だ!」

「戦を起こしてでも、今一度屈服させるべきでは――」


だが、その時。

玉座の下に立っていた若き宰相・グレイス卿が静かに手を挙げた。


「――愚かな策ですな。王国はすでに一度、敗れたのです。五万の兵を失い、指揮官の多くを喪いました。

雷火国は、民が一人として逃げ出さず、民兵さえ戦い抜いた。魔王の飛竜部隊も健在です。

今、戦っても勝てぬ。第二の敗北は、国家の終わりを意味する」


その冷静な分析に、貴族たちは言葉を失う。

だが、それでも感情の昂ぶりは抑えられなかった。


「では、この屈辱を飲むというのか!? 我々は膝をつくのか!」

「国の威信はどうなる! 民衆が黙っていない!」


その時、老王がゆっくりと口を開いた。


「……かの男、健二はこう言ったのだな。『拒むならば、次の戦は玉座を奪う』と」


重い声に、全員が静まり返った。


「この要求は屈辱だ。だが……正義は雷火国にある。

わしは――この責任を、退位という形で償おう。

次の王には、未来を選ばせよ」


王の決断に、議場は混乱と動揺に包まれた。

だが、それが王国の転機となることを、まだ誰も知らなかった。



王国の都、ファルメリア──

老王が賠償金支払いの詔を発してからというもの、宮廷では憤怒の声が渦巻いていた。ことに、南部軍を率いていたデュラン公爵は顔を朱に染め、玉座の間に響き渡る怒声を上げた。


「雷火の連中ごときに頭を下げ、金を差し出すだと? このままでは王国の威信が地に堕ちる!」


彼の言葉に呼応するように、かつて敗北を喫した将軍や貴族の中から「再戦」を望む声が次々と上がった。

だが王家は、敗戦と国庫の空虚を前に身動きが取れず、現実的な穏当策を模索していた。


その動きに業を煮やしたデュランは、自領に帰るや否や、領内の王党派を粛清し、私兵を動員。さらに旧敵と手を結び、反王家連合を組織する。

そしてある晩、デュラン公爵はついに檄を飛ばした。


> 「王家は愚か者。真にこの国を導けるのは我らだ! 雷火に報復せねば、民草すら我らを嘲るであろう!」




その翌朝──

彼の旗印が翻ると共に、南部五州が一斉に王都との連絡を断ち、反乱を宣言。

他の有力貴族も「戦で負けた王家に従う理由はない」として、徐々に離反。王国は再び、内乱の縁へと追い込まれた。




民の嘆き、静かなる怒り


一方、王都では賠償金捻出のため、前例なき重税が布告された。

食料、織物、塩、さらには井戸水にまで課税され、庶民は息をするのも苦しい始末。徴税官の横暴と、兵士の横柄な振る舞いは各地で問題となっていた。


「なぜ我らが、貴族の過ちを背負わねばならぬのだ……」

「戦ったのは奴らだ。死んだのも奴ら。だが生き残った我らが餓えるとは」


やがて、農村や港町、鉱山の街など各地で暴動や略奪、放火が頻発。

だが王家も貴族も、それを「ならず者の蜂起」として武力で鎮圧し、事態を悪化させていく。


──しかし、その中で。

静かに雷火国の書物や演説記録を回し読みする者たちが現れ始めた。


「健二という者は言った。正しさと強さを併せ持て、と」

「雷火国では、民でも学べる。剣も魔法も農も、すべてが力となるのだと」


誰ともなく、雷火の思想に共鳴する者たちが現れはじめた。

内に秘めた怒りと希望は、やがて燃え上がる炎となるだろう。


──それは、ただの一揆ではなかった。


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