雷火国の歓喜
健二の戦後演説
戦の翌日、まだ火薬と血の匂いがわずかに残る戦場の丘。
雷火の旗が高く掲げられた中、健二は玉座ではなく、土に立ち、民と兵たちの前に姿を見せた。
彼の声は、焼け落ちた空を切り裂くように、まっすぐに響いた。
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「皆、よく戦った」
静けさを破るその言葉に、兵も民も一斉に顔を上げる。
健二は一歩、前へ出ると続けた。
「この戦いは、ただの領土争いではない。
雷火国が――俺たちが、何を大切にし、どう生きるかを問われた戦だった」
風が吹き抜ける。だが誰も口を開かず、王の言葉を待った。
「この国には、人の姿をした者だけでなく、耳の尖った者も牙を持つ者もいる。
武器を取る者もいれば、土を耕す者もいる。
だが、皆が同じようにこの地で生き、この国を守るために立った。
それこそが俺たち雷火国の強さだ」
健二の拳が強く握られる。
「王国はそれを見誤った。
彼らは、俺たちを『異端』と呼び、蹂躙しようとした。
だが俺たちは、屈せず、逃げず、立ち向かった。
そして勝った。力で、心で、誇りで!」
兵士たちの目に涙がにじむ。
農民たちが互いに肩を叩き合う。
魔族の子供たちが、空を見上げて笑った。
健二は一拍置き、声の調子を落として語り続けた。
「この勝利は、俺だけのものじゃない。
剣を振るった者も、刃を研いだ者も、子らを抱いて祈った者も――
皆がこの国の一員として、それぞれの戦を戦ったからこその勝利だ」
「だから、今ここに誓う。
俺はこの雷火国の王として、二度と理不尽な侵略を許さない。
力無き者が踏みにじられる時代を、ここで終わらせる」
最後に、健二は右手を掲げた。
「強く、優しく、正しくあれ。
それが俺たち雷火の誓いだ。――誇れ、皆。今日の勝利を!」
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爆発のような歓声が戦場に広がる。
誰かが泣きながら笑い、誰かが泥だらけの拳を掲げた。
その中心に立つ男――健二は、ただ静かに、民の顔を一人ひとり見つめていた。
健二による王国への通達 ― 賠償命令 ―
戦の翌朝、雷火城の大広間にて。
魔族、亜人、人間――雷火国の高官たちが列席する中、健二は玉座に座らず、階段の中腹に立っていた。
正装はせず、戦場で羽織っていたままの黒装束。
その手には、王国へ送る正式な書状が握られていた。
読み上げを任されたのは、ランドルフ侯爵。
だが彼は一礼した後、「ここはあなたが」と譲った。
健二は一度だけ深く頷き、静かに言葉を発した。
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「雷火国王・健二より、王国上層部――並びに現政権へ通達する」
その声は、魔術により遠方の国境警備隊や外交官の水晶へと届くようになっていた。
「貴国は、我が国に対し一方的な宣戦布告を行い、民間人の避難も認めず侵攻を開始した。
これにより生じた被害は甚大であり、その責任は明確に貴国にある」
健二は視線を前に向け、言葉を重ねる。
「よって、雷火国は貴国に対し、以下の要求を突きつける」
朗読するように、健二は一つひとつ言葉を刻んでいく。
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1.戦争による損害補償として、五年にわたり年五百億金貨の支払いを命ずる。
2.雷火国領内にて拉致された者、搾取された資源の全数報告と返還。
3.今後十年、雷火国との国境に軍を駐屯させぬこと。
4.雷火国の文化と教育機関に対する非干渉と、希望する王国民の留学を認めること。
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「これらを誠実に履行する限り、我が国は報復を行わず、和平を維持する」
その言葉は「慈悲」であり、同時に「最後通告」だった。
「ただし、これらの命令を拒むならば――次の戦いでは、俺は城壁ではなく、玉座を奪いに行く」
広間が静まり返る。
その声は魔法を通じて、敵国の将たち、議会の者たちの心にまで響いていた。
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言い終えると、健二は書状をランドルフに手渡した。
老侯爵はそれを受け取り、感慨深げに微笑む。
「正しき王の裁き。誇りに思います、陛下」
健二は少し照れくさそうに目を逸らしながら、短く返した。
「……肩書きはどうでもいい。ただ、間違ったことは許せないだけだ」
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こうして雷火国の「戦後処理」は、威厳と正義をもって始まった。
それは、武による勝利ではなく、「真に強い国とは何か」を示す勝利だった。




