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開戦の鉄槌

夜――

月明かりすら遮る曇天の下、雷火国の“影”が動いた。


彼らは灰刃隊と呼ばれる隠密部隊。

元は盗賊、密偵、賞金稼ぎ――裏の世界を渡り歩いた者たちで構成されている。

しかし今や、雷火王国の最も鋭い刃として鍛え上げられていた。


灰刃隊は、王国軍の偵察隊を無音のまま襲撃した。

一人も殺さず、だが確実に意識を刈り取り、拘束する。

連れ帰った兵の口を開かせるまでに、そう時間はかからなかった。


「王国軍、五万……」


報告を受けた健二は、黙して頷いた。

対する雷火国軍は、学生・町民予備兵・傭兵・隠密まで合わせても一万五千。


だが、数の差に怯える者はこの国にはいない。

数千の民が王国を退けた“冬の戦”を、皆が覚えていた。


「――先に撃つ」


健二は即断した。


全軍に待機命令を出すと、自ら飛竜大隊の下へ向かった。

配下の騎士たちは既に天翔る竜の背に跨がり、出撃の時を待っている。


「いいか、お前ら。空は俺たちの領域だ。

 俺が一撃目を放つ。その後は分隊行動で敵の指揮所と魔導塔を叩け。

 逃げ道は要らん。撃ちきって戻れ」


「応ッ!!」


空気が震える。

飛竜たちの咆哮が夜を裂いた。


健二は深く息を吸い、杖を構える。

手元に奔る雷と炎が渦を巻き、呪文が静かに完成した。


「――雷火魔法・轟斬閃嵐ごうざんせんらん


次の瞬間、雷鳴と共に天地を灼く閃光が、王国軍陣の中心へと降り注いだ。


それはまさに、開戦の狼煙。

否――狼煙ではない。

それは、討つ者の意思を叩きつける、雷火の鉄槌であった。


灰刃隊はすでに敵陣深くに潜入していた。

混乱に乗じ、補給線や指揮官の背後を狙う。


地上に残った全軍は雷火城にて、黙して出陣の時を待つ。

民も兵も学生さえも、ただ王の背を見つめていた。


こうして、雷火国と王国の戦端が――静かに、だが鮮烈に開かれた。


――王国軍奇襲戦


轟音が大地を揺らした。

健二の一撃が王国軍陣中央を焼いた直後、夜の帳が再び静けさを取り戻したかに思えたその時。


影が――忍び寄る。


まず動いたのは灰刃隊。

火災と混乱に乗じ、敵の視線が外れた瞬間、闇の中を駆け抜ける。


「武器庫、ここだ。制限魔法、解除――火薬使うぞ」


爆音。

続いて立ち昇る黒煙。


矢と剣を納めたはずの倉庫が、炎と共に吹き飛んだ。

次いで、食料庫。

慎重に潜入した吸血鬼たちが、冷酷に、確実に破壊を遂行する。


「飢えと寒さが兵を殺す。戦いなど要らぬ」


薄く笑った紅眼の兵士が、倉庫に火を放つ。


吸血鬼大隊――その夜目と身体能力は、まさに暗闇の王。

気づいた時にはすでに事が終わっている。


兵らが混乱の中で動揺し、叫びを上げるその頃、

さらなる恐怖が、王国軍を襲った。


――“猫影”が、踊る。


風のように走り、草のように舞い、

一撃で喉を裂く者たち。

猫族亜人部隊。


標的は明確だった。指揮官。


「副将斬ッ!」


「中隊長、仕留めた!」


戦意を喪失した部隊は瓦解し、

前線を構築しきれぬまま、王国軍はじりじりと後退。


深夜――

任務を終えた雷火国の隠密たちは、再び影へと姿を消していた。


灰刃隊も、吸血鬼も、猫族も、誰一人として討たれぬまま。


彼らは鮮やかに奪い、破壊し、混乱させ、

何より――恐怖を植え付けた。


そして夜明け前、王国軍の陣には、

誰が放ったのかすら分からぬ、一本の黒い矢が突き立っていた。


その矢に結ばれていた小さな札には、ただこう記されていた。


「これは序章にすぎぬ」


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