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解体ショーと学校設立

魔王城・西の庭園ホール


その夜、最後の宴が開かれたのは、魔王城の中でもとくに風通しの良い庭園ホールだった。魔界の月が深紅の光を落とし、黒い草花と青い焔のランタンが幻想的に揺れている。


庭の中央には、雷火国より持ち込まれた調理台がひとつ――健二はそこに立ち、腹を割って解体する巨大な魚を前に、意気揚々と包丁を構えた。


「こいつは……地元じゃ“紅鰆”と呼ばれてるらしい。見た目はマグロだけど、ちょっと筋肉質な気がするな」


周囲を囲む魔族たちは興味津々。魔王自身も、王座を離れて最前列に陣取っていた。


そして――


ザクッ、スッ、スパァッ!


健二の手が動くたび、紅鰆の身が鮮やかに切り分けられていく。その動きは流れるようで、まるで剣舞のごとし。普段、刀や槍を振るうその手が、いまは料理の技として輝く。


「すげぇ……」「これは芸術だ……」


驚きと賞賛の声が漏れはじめる。さらに――


「――寿司、ってやつだ」


健二は酢飯(魔王領製の高級ビネガーを使用)を握り、その上に切り身を載せた。「握ったことは無い」と言っていたが、勢いと魂で誤魔化す。


それが、魔王たちには刺さった。


「……芸術に“未熟”は要らぬ。信念こそが味を決める」


魔王が呟き、手ずから一貫を口に運ぶ。そして――


「……ふむ。面白い。おかわりをくれ」


魔王の一声で、場が沸いた。ライナスもリーファも、ランドルフでさえも、その夜ばかりは皆、子供のように笑っていた。


そして、宴もたけなわとなった頃――魔王がふと杯を置いた。


「――ケンジ・アラカワ。お主に提案がある」


健二が顔を上げる。


「雷火国が、もしも外敵の侵攻に晒されることがあれば……我が軍を派遣しよう。条約にはせぬ。だが、我が言葉は誓いだ」


場が静まり返る。


「その代わり、雷火国に“学び舎”を建ててほしい。お主の文化、教養、思想――その“人間の強さ”を学ばせる場所を。魔族の子供たちの中で優秀な者を選び、そこへ留学させたい」


沈黙。――すぐに、それを破ったのは、ランドルフ・ハワード侯爵だった。


「……ありがとうございます。ありがとうございます、魔王陛下……!」


声を震わせ、眼鏡を外して目頭を押さえた。ギルが肩を叩き、ライナスも珍しく頷く。


「いいさ。やってみる価値はある」


健二は微笑した。酢の匂いが袖に染みている。それでも、この瞬間の空気は、なによりも澄んでいた。


「誰かにとっての“正しさ”を、俺は形にしてやりたい。……その中に、きっと魔族の子もいる」


魔王がうっすらと笑った。


「ならば、我らの縁は真に深まるだろう」


杯を交わし、雷火国と魔王領との未来が――この晩餐とともに、確かに築かれたのだった。



魔族領を発つ朝、空は紅く染まっていた。深紅の空に黒い鳥が舞い、帰路を祝福するかのように風が静かだった。


ライナスは城門前で、最後に魔王と言葉を交わしていた。


「……貴様の剣は、ただの武技ではない。理念を帯びている。剣術師範として残らぬか?」


魔王が静かに問いかける。


ライナスは僅かに沈黙した後、健二の背を見やった。荷物を肩にかけ、笑顔で手を振る男。あの背中を守るために、自分が教えてきた全てがある。


「――俺の弟子が“一人前”になったら、な」


そう言い残し、馬にまたがった。魔王は笑い、その背に一言だけかけた。


「待っているぞ、剣士」


こうして雷火国の旅団は、風に乗って帰路についた。



---


雷火国・雷火丘の学び舎


帰国後、雷火国は騒然としていた。だがそれは歓喜の混乱だった。魔族との友好、魔王領との同盟、そして雷火国に学び舎が建つという事実に、国中が揺れた。


健二は即座に学校建設を宣言し、ランドルフ侯爵とギルは資材と人手をかき集め、リーファとライナスは設計と教育構想を練った。


わずか三ヶ月――丘の上に、美しく堅牢な学び舎が建った。戦士の育成所ではない。文化と力、思想と生活が共に息づく「希望の学舎」だった。


その教育科目は多岐に渡る。


格闘術・剣術(ライナス・ドゥーガンが主導)


魔法(リーファ、補佐に魔王領からの使者)


料理・農業・漁業(健二と地元の職人たち)


「正しさ」と「強さ」について(健二が講義)



※読み書き・計算は国民教育として既に定着していたため、省かれた。



---


開校の日・雷火国学び舎


開校式当日、朝霧の中で門が開かれた。


最初に現れたのは、真紅のマントをまとった魔王だった。随行するのは魔族の子供たち――その瞳は好奇心と緊張に満ちていた。


「よくぞ、誓いを果たしたな、ケンジ」


「……約束だからな」


健二は白い礼服を着て立っていた。その背後に並ぶのはリーファ、ライナス、ランドルフ、ギル――そして雷火国の教師たち。


校舎の扉が開かれ、鐘が鳴る。子どもたちが一斉に顔を上げた。


「ようこそ、“雷火の学び舎”へ。――ここは、君たちが“何者かになる”ための場所だ」


健二の言葉に、魔族の子の中から一人が手を挙げる。


「なんで、人間が教えるんだ?」


静まり返る場に、健二はゆっくりと微笑んで答えた。


「人間も魔族も、何かを“教えられる”のは強いからじゃない。伝えるべきものがあるからだ」


魔王が一歩前に出て、子どもたちを振り返る。


「学べ。奪うためではなく、生きるために。お前たちが未来の“王”となれるようにな」


風が吹いた。雷火国と魔王領の未来が、いま確かに交差した。


こうして“雷火の学び舎”は、その扉を開いた。


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