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やはり旅行で良いのでは?

朝陽が魔界の黒い塔を照らすころ、魔王城の一室では、政治的な重鎮たちによる静かな戦いが始まっていた。


椅子に深く腰掛けた魔王を中心に、雷火国宰相ランドルフ・ハワード侯爵、魔王領財務大臣カドル=リュム、そして雷火国代表のギルが並んで着席する。


健二も最初は同席していたが、数分と経たぬうちに難解な単語と数式が飛び交い始めた。


「……変動通貨の担保保証? 利率差分って……何だ……」


健二は肩を竦め、そっと席を立った。魔王がくすりと笑って見送る。


「よろしい。君はまた“剣”と“飯”の話でもしてきたまえ。これは“戦”の別の形だ」


「助かるよ、魔王さん」



---


魔王領市街・西環区


健二、リーファ、ライナスの三人は、城下町へと降り立った。


魔王領の市街は、思いのほか活気に満ちていた。闇の帳が薄く漂う空の下にもかかわらず、街路には魔族や亜人、時折人間までもが行き交い、異種の文化が交差している。


「この町……思ったより、ずっと温かい」


リーファが驚いたように周囲を見渡す。


「偏見ってやつは、時に目を曇らせる。魔族だって、生きて暮らしてんだ」


健二が応じる。


まず三人が向かったのは武具通りの道場区。魔王領の精鋭たちが剣術や武道を磨く地だ。


「おっ。片っ端から見ていこうぜ」


ライナスが楽しそうに笑い、鋭い眼で看板を眺め始める。


片目を包帯で覆った長耳の剣士が教える流派、雷撃術と柔術を合わせた格闘流派、さらには巨大な棍を扱う鬼の道場まで――三人は各所を巡り、それぞれ軽い手合わせを願い出た。


「おい、健二。やる気か?」

「ちょっと身体がうずいててな」

「……病気かよ」


リーファのぼやきをよそに、健二はすでに稽古着を借りて立ち合いに臨んでいた。



---


飲食街・“黒薔薇横丁”


汗を流した後は腹ごしらえ。


黒薔薇横丁と呼ばれる飲食街には、魔族特有の料理が立ち並ぶ。蒸した獣骨のスープ、炎酒で炙った魚介、妖花の果実を使った甘味――一見毒々しいが、香りは芳醇でどこか懐かしい。


「この酒、喉が燃えるけど……悪くない」


「私、この果実のタルト好き……ほんのり酸っぱくて」


健二もリーファも、魔界の味を思いがけず気に入っていた。


ライナスはというと、飲食よりも店主との料理談義に夢中で、ついには厨房に入れてもらい、地元の調理法まで学んでいた。



---


その頃、議政の間では


ランドルフとカドル=リュムが帳簿を突き合わせ、魔王は頬杖をついてそれを見守り、ギルはコップ酒を片手に資料を読み込んでいた。


「……健二殿が通貨の基軸国を目指すと申した時は、冗談かと思いましたが……」


「冗談でここまで帳簿が膨らむものかね。あの男の背中に、民がついてきてしまったのだ」


ランドルフは微笑しつつ、魔王と視線を交わす。


「ゆえに……我々が支えねばなりませんな」



---


こうして、剣と食と旅路のひとときを楽しんだ健二たちの一日は、夕暮れとともに魔王城へと戻る。


その夜、魔王領での“最終の一夜”が静かに近づいていた。



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