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アグナス南方開戦

その日の空は、灰のように重く曇っていた。

だが戦場に最初の閃光を刻んだのは、空でも太陽でもなく、一人の男の意思である。


健二は飛竜の背に立ち、空を駆けた。

漆黒の外套が烈風に翻り、両手には雷と炎の剣。

空より舞い降る“王”の一撃は、雷火国の名そのものだった。


> 「放てッ――!!」




開戦の狼煙。

それは空よりの雷撃と火雨――

健二率いる飛竜部隊が、王国軍の前線へと怒涛の攻撃を浴びせかけた。


火薬、油壺、鉄杭。

上空から降り注ぐ死の雨に、王国兵たちは陣形を乱し、悲鳴と怒号が交錯する。


雷火団の魔術師たちも後方から支援。

炎の竜が野を駆け、雷の蛇が空を裂く。


> 「隊列が崩れたッ、今だ――!」




その隙を突くかのように、エルデリオンが率いる抜刀隊――通称「灰刃隊」が突撃した。

十数騎が先陣を切り、歪んだ防陣を力で切り裂く。


エルデリオンの剣が一閃。

光の軌跡を残して王国兵の盾を断ち、甲冑を砕く。


> 「かつて勇者が戦場を駆けたように――!」




灰刃隊の突撃はまさに電撃の如し。

前線の一角が瞬く間に崩壊しかける。雷火軍の士気は天を衝いた。


だが――


突如、敵陣の中央に陣取る旗が、整然と掲げ直された。


銀に縁取られた青い軍旗。

その下に立つ男――鋼翼将軍ヴォルネスが、無言のまま指揮棒を上げる。


次の瞬間、崩れていたはずの前線が、異常な速度で再編された。


楯兵が斜列を組みなおし、


槍兵がその背に控え、


弓兵が丘陵の遮蔽から矢を放ち始める。



すべてが、声なき号令によって同時に動いていた。


> 「……指揮が、見えない……いや、聞こえない……!」




ランドルフ侯爵が呟いた。

ヴォルネス将軍は、視線と指揮棒のわずかな動きで千の兵を動かしていた。


王国軍は「意思のない鋼鉄の兵」となり、整然と反撃に転じる。


エルデリオン隊の突撃は途中で速度を落とされた。

突き上げられる槍、横合いから飛ぶ矢、そして剣。

俊敏な灰刃隊ですら、深く突き抜ける前に引かざるを得なかった。


後方の健二も、変化を察する。


> 「――やはり噂通りか。あの将軍、“意志を持つ戦場”を作りやがる……」




ヴォルネス――

戦場全体を一つの生命体のように動かす、恐るべき男。

王都にて二十年の間、不敗を誇った男の本領が、ついに露わとなった。


王国軍との激突の末、戦線は膠着していた。

白昼の熱を帯びた戦場が、夕闇の帳に包まれる頃――

南方より、奇妙な音と共に現れた影があった。


その一団は、角と牙を携え、筋骨隆々たる肢体を誇っていた。

ミノタウロス――魔族領北端に根を張る、戦を嗜む誇り高き獣人部族である。


その筆頭、筋骨の鎧を身に纏う首領ゴル=マドが、雷火軍の陣営に現れると、健二に太い腕で挨拶した。


> 「貴様が“雷火の王”か。

よかろう。我ら、面白き戦に加わるとしよう。だが…戦いとは楽しむものだ。」




そしてミノタウロスたちは、戦列を整えるでもなく、ただ野に散った。


■王国軍への“果実の雨”


夜が更けると同時に、王国軍の前線に異変が起きた。

突如として、どこからか投げ込まれる異臭を放つ巨大な果実。


――ズドン!

――ボンッ!

――グジュアアッ…!


炸裂し潰れたそれは、魔族領特産の果実「ガル=ドリア」。

熟しきったドリアンに似た形状と、凶悪な悪臭を有する天然兵器。


> 「くっさぁぁぁああ!!!誰だこれ投げたのは!!」 「ぐえっ、目が…目がァッ!」




王国軍の兵たちは、突如訪れた悪臭地獄に顔をしかめ、戦意を削がれていく。

士気は乱れ、斥候も野営も滞る。

だが、それはただの“序章”に過ぎなかった。



---


■夜の戦場に舞う灰の刃


その隙を突いて、エルデリオン率いる灰刃隊が動いた。

黒装束に身を包んだ俊足の剣士たちは、王国軍の隙間を縫って忍び寄る。


目標は、後方の武器庫と食料庫。

煙の上がらぬ油、細工された火種。

そして……


> ボウッ……ゴゴゴ……ッ!!




漆黒の帳に包まれた王国陣の各所から、赤き炎が噴き上がる。


> 「燃えてる!? 補給庫が!? 待て、なぜ火が回った!?」 「くそっ、あの抜刀隊か……!!」




王国兵たちは混乱し、対応に追われる。

鎮火部隊の再配置が必要となり、最前線に回す余裕が失われていく。



---


■夜目の軍勢と雷火の夜営


一方、雷火軍の野営地は静けさを保っていた。

それを支えていたのは、吸血鬼と猫の亜人たち――夜の民である。


吸血鬼のナーヴァは、闇夜の中を滑るように歩き、気配に敏感な猫人のミィシャが、木々の上から広範囲を見張っていた。


> 「右、獣の気配。三、いや四体」 「ああ。罠へ誘導するわ、ついてきて」




王国軍の斥候が何度も夜襲を試みるが、すべて返り討ちにされる。

まるで闇そのものが雷火国軍を守っているようでさえあった。


健二は丘の上からそれを見つめ、呟いた。


> 「夜は俺たちの味方だ。なら、夜のうちに叩けるだけ叩く…」



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