こんな事で決闘に…
木の扉が軋み、昼下がりのバルドの店に風が吹き込んだ。
「……また来たのか。ありがたいこった」
バルドが薪をくべ直しながら、小さく呟いた。
店の隅に座っていたマチオ──健二は、湯気の立つスープをすすっていた。
(さつま芋みたいな根菜。まぁ、悪くない)
スプーンもフォークもない世界。
だが、慣れてくれば木の匙も手食も悪くない。
しかし、静かな昼食は長く続かなかった。
「ふん……やはりここにいたか、“異邦の男”」
甲冑の音もなく、騎士は静かに立っていた。
サー・ウィリアム。
彼の金髪は陽光を弾き、皮鎧に似合わぬほど威圧的だった。
マチオは何も言わず、スープを口に運ぶ。
「どうやら貴様は、村人に気に入られているようだな」
返事はなかった。
ウィリアムはひとつ鼻で笑い、空いた席に座ると、バルドに命じる。
「飯を出せ。肉と魚、温い酒もな」
すぐに皿が出された。
だが──。
食べ方は酷かった。
肉を噛みちぎるたびに、汁が飛び散り、
魚の骨は取りもせず、吐き出すようにして床へ捨てる。
そして、指を服でぬぐい、また酒をあおる。
マチオは、匙を置いた。
黙って、視線だけを向けた。
「……なんだ。文句でもあるのか?」
「ある」
短く、鋭く、それだけ言った。
「汚い。村人の前で、それはない」
ウィリアムはゆっくりと立ち上がった。
木の椅子が、軋んで倒れる。
「どうやら、貴様は己の立場を理解していないらしい」
「お前こそ、“騎士”をなんだと思ってる」
店の空気が凍った。
周囲の客は箸を止め、バルドは顔をしかめる。
誰もが、次に来る言葉を予感していた。
「よかろう。村の外で、貴様と拳で語ろう」
ウィリアムは、口元に皮肉を浮かべた。
「──決闘だ、“異邦の男”。正々堂々、素手でな」
マチオは立ち上がった。
もう何も言わなかった。ただ、静かに頷いた。