決戦
魔族の闘技大会――それは、力こそがすべてを決める世界。
剣の冴えも、魔の深さも、肉体の強靭さも、勝者だけが讃えられ、敗者は容赦なく退場させられる。
この苛烈な舞台で、ふたりの異邦人――健二とリーファは、文字通り命を削って勝ち進んでいた。
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【リーファ:無慈悲なる正確無比】
第一戦、剣士との一騎討ちは二十秒で終わった。
相手の剣を滑らせ、喉元に木剣の切っ先を添えた時には、観客席からざわめきすら漏れなかった。
第二戦、魔術師。
詠唱を封じる間合いの読み、杖を弾いて喉元に踵を打ち込む。終始無言のまま沈黙を貫いた。
第三戦、狼の獣人。素早く鋭い爪撃にリーファの皮膚が裂けたが、血を流しながらも、反撃の一撃は骨を砕いた。
そして準決勝――相手は不死の吸血鬼。
圧倒的な再生力と鋭い爪牙、魔力を纏った一撃。
一度は心臓を穿たれ、脇腹を貫かれるも、リーファは何度も立ち上がった。
お互い、何度も倒れ、立ち上がり、また血を流す。
それでもリーファは、相手の再生がわずかに遅れる瞬間を見逃さなかった。
最後は喉元への踏み込み一閃。
審判役のファルザス子爵が手を上げるまで、吸血鬼は動かなかった。
「勝者、リーファ=アウリス!」
その場にいた誰もが、神の血を引く少女が“本物”であることを理解した。
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【健二:沈まぬ雷火】
初戦――牛の獣人。全身を鎧のような筋肉で覆った暴力の化身。
雷火を解放してもなお、健二は腹を角で貫かれ、場外へ吹き飛ばされかけた。
内臓に達する傷を負いながらも、雷の剣で角をへし折り、炎の蹴りで相手を沈めた。
そこから先、戦いは常に苦戦の連続だった。
死霊術師との戦いでは、無数の亡者の腕に引きずり込まれながらも、全身から電撃を放ち焼き払った。
魔法剣士との斬り合いでは、魔力の刃が健二の右肩を裂いたが、それでも雷火の剣を捨て、木剣で打ち抜いた。
そして準決勝――相手は侍のような魔族。
鋭い抜刀、静かな間合い、そして恐ろしいまでの冷静さ。
健二は雷火と電撃駆動を制限し、木剣一本で応じた。傷は深く、呼吸も荒かった。
だが最後、侍の懐へ飛び込んだ健二は、そのまま肘で顎を砕き、首筋に木剣を当てて勝利をもぎ取った。
「――勝者、健二」
観客の声は一瞬遅れて巻き起こった。
人間の限界を越えた気迫が、魔族の心をも打ったのだ。
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【決勝前夜】
試合の後、二人は同じ部屋で静かに座っていた。
リーファが、健二の包帯をそっと締め直す。
その指先にはまだ、治癒魔法の痕跡が残っていた。
「……明日、当たるんだね。私たち」
「……ああ」
「手、抜いたら怒るよ?」
健二は笑いかけたが、その目に揺らぎはなかった。
「抜く気はねぇよ。……お前が、どこまで強くなったか、ちゃんと見せてくれ」
リーファは一拍、目を伏せたのち、彼の手を握った。
「明日……“勝って”も“負けても”、私はあなたの味方でいる。
だから、全力で来て。お願い」
夜は静かに更けていった。
明日――決勝戦。
ふたりは、避けては通れぬ一線を越えることになる。




