表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/93

手土産はハーベン公爵(首)

分厚い木の扉が閉じられ、部屋に重苦しい沈黙が満ちる。

健二、ギル、リーファ――そしてランドルフ・ハワード侯爵が顔を揃えていた。


机の上には手描きの地図と、拷問によって得られた情報を記した文書。

その中心に、健二が無造作に投げ出した布袋がある。中身は言うまでもない――ハーベン公爵の首だった。


「……やりすぎだとは思わん。あの男は明らかに黒だった」

侯爵は低く唸るように言った。


「だが、これをそのまま王都に持っていけば、貴様は“英雄”じゃなく“反逆者”になる可能性が高い。腐ってるんだ、今の王家と上層部はな」


侯爵の眼差しには怒りと失望が混ざっていた。


「奴らは“神の騎士団”に利用されているだけじゃない。すでに取り込まれている可能性が高い。腐敗の根は、深い。貴族も、軍も、王族さえもがな」


健二は無言で侯爵の目を見つめた。


「だが、行かねばならん。奴らの本拠を潰すには、王都に火を点けるしかない」

健二は言った。


「王都に火を点ける……?」ギルが眉をひそめる。


「火種はこの首だ」健二は袋を指差した。「これを王都で晒す。隠しきれぬ証拠として。そして、神の騎士団がどれだけ王族や貴族に食い込んでいるか……公然と問いただす」


侯爵が口を開いた。


「それは……博打だな。だが、悪くない。王都で貴族の誰かが反応を見せれば、次に切るべき首が見えてくる」


「俺の命が消える可能性もある」健二は冷静に言った。


「それでも、やるか?」侯爵が問いかける。


健二は静かに頷いた。


「リーファの命を狙った連中を……女神と勇者の血を食らおうとした奴らを……このまま放ってはおけない。腐った根を断ち切るためなら、命のひとつやふたつ……惜しくはない」


リーファがそっと健二の袖を掴んだ。言葉はない。ただ、その眼差しがすべてを語っていた。


「……ならば、私も腹を決めよう」侯爵が立ち上がる。「王都へは私の名前で入れ。軍の一部も私が動かす。正面から戦って勝てぬなら、裏から揺さぶってやる」


ギルがニヤリと笑った。


「父上が本気を出すなら、王都も面白くなるな」


作戦は決まった――


王都へ首を持って出向き、腐敗の中心を炙り出す。

それが成功すれば、王国は変わる。失敗すれば、全員が反逆者として処刑される。


だが彼らの目に、恐れはなかった。



朝霧の残る王都——その中心、広場の晒し場。

民衆がざわめく中、一人の男がゆっくりとその台に登った。

黒の長衣、肩に覆い布。

右手には、血に染まった布袋。


健二だった。


彼は静かに袋を持ち上げ、その中身を晒し台の上に置いた。

袋から転がり出たのは、血の気を失ったハーベン公爵の首。


一瞬の沈黙。

次いで、女の悲鳴と、男たちの怒号が混ざり合い、広場全体が騒然となる。


それでも、健二は動じなかった。


彼の声が、静かに、しかし確かに響き渡る。


「この首は、ハーベン公爵のものだ。

神の騎士団の一員にして、生け贄を捧げ、女神と勇者の血を喰らわんとした外道の成れの果てだ」


騒ぎがさらに膨れ上がる。

貴族らしき者が何人もその場を離れ、衛兵が動き出す気配もある。


「この国は腐っている。

王も、貴族も、軍も……神を語る悪鬼に魂を売った奴らが、民の上に立っている」


健二は剣に手をかけることもなく、ただ言葉で攻め立てた。


「この首を見て、震える貴族がいるならば、そいつも同類だ。

女神の血を欲したか? 勇者の肉を喰らおうとしたか?

今さら取り繕っても遅い。俺はこの国の“膿”を曝け出すためにここに来た」


「俺の名は健二。ただの男だ。

だが、友のために、未来のために、剣を取った。

女神と勇者の子を守るため、命を賭けることを選んだ!」


民の中には耳を塞ぐ者もいれば、拳を握る者もいた。

貴族の間に走るのは動揺と恐怖。そして、怒り。


「この首を恐れる者どもよ——俺は、お前たちの罪をすべて暴く。

次にこの晒し台に晒される首が誰になるか……楽しみにしていろ」


その言葉を最後に、健二は踵を返す。

既に混乱は広まり、彼の姿を追う者は誰もいなかった。

まるで、広場全体がその言葉の衝撃に凍りついてしまったようだった。



---


【魔族領へ向かう者たち】


その数日前。

ランドルフ・ハワード侯爵、ギル、リーファは少数の私兵を率いて、密かに国境を越えた。

目指すは魔族領の一角にある、〈ファルザス〉という名の小領地。


そこには侯爵の古い友人——魔族の子爵ラジェル・ファルザスがいる。

かつて王国と魔族の間に短い和平があった頃、交渉の橋渡しを担った人物の一人だった。


「お前らが王都を引っ掻き回してる間に、俺たちは別の力を動かす」

ギルが笑いながら健二に言った。


「腐った王国には外の“目”が必要だ。神の騎士団が根を張ってるなら、魔族にだって利害がある。共に戦う道も……あるはずだ」


リーファは静かに頷いた。


「人の国が腐っていても、神や勇者の血を喰らわせはしない。

私は、それを止めるために生きる」


そして、分かれた道。

健二は王都へ。

リーファとギルは、魔族との接触へ。

それぞれの場所で、火が灯り始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ