神の騎士団との決戦
セイファスの夜は海霧に包まれていた。
海風が重く、町中の灯火がにじむように揺れている。
「儀式は今夜、真夜中だ」
密かに連絡を取り合っていた隠密が、健二とリーファの潜伏先に現れたのは日没直後のことだった。
「場所は教会地下の礼拝堂。その奥、神殿関係者しか入れない区画だと」
健二が無言で頷く。
隠密は目配せし、視線をリーファに向けた。
「……この町に潜伏していた“彼ら”の目的は、あなた様の“血”です。どうか、ご覚悟を」
リーファの拳が震えていた。
「ありがとう。あとは私たちに任せて」
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【ハワード侯爵の陣営】
一方、ギルはすでに教会から少し離れた山裾にある旧砦へと戻っていた。
そこではハワード侯爵が、信頼する私兵団と衛兵を率いて待機していた。
「父上……健二とリーファは、今夜儀式の現場に突入する」
「そうか。ならば我々は、民の安全確保と逃亡者の捕縛に回る」
老侯爵の声は静かでありながら、苛烈な闘志がにじんでいた。
「ギル、お前が指揮を執れ。今夜は領地の存亡がかかっている」
「……了解した」
ギルは短く答え、懐から地図を広げた。
「出入口は三箇所。神殿の地下礼拝堂、北の裏口、そして…貴族用の通用路。逃がさねえ」
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【教会地下・儀式の間】
健二とリーファは教会裏手から潜入した。
隠密の情報により、神殿内の裏階段を通じて地下の儀式場へ辿り着く。
「……酷い臭い」
リーファが思わず顔をしかめた。
血と香油、焦げたような肉の臭い。そして――人の呻き声。
礼拝堂の奥、金色の扉が静かに開かれる。
そこは祭壇だった。
聖書に描かれたはずの神々しさはどこにもない。
代わりに、石の台に縛られた少女と少年。
目を見開いたまま呻き、身体は切り裂かれ、何かを抜き取られている。
祭壇の周囲では司祭たちが祈りを唱え、
銀の皿に滴る血を聖杯に注いでいた。
「これが……神との“融合”だと?」
健二の声が震えた。
血を飲む者、肉を喰らう者――その中には、貴族の顔もあった。
銀の杯を傾けながら、うっとりと目を閉じる初老の男。
その額には、神の騎士団の印章。
「生ける勇者の血……神に捧げられし女神の娘……その肉を我らに」
リーファの指が剣の柄を握りしめた。
「絶対に、許さない」
健二が雷火の気を放つ。
「行くぞ。ここで全部終わらせる」
雷火が蠢く。
空気が震え、祭壇の者たちが振り向く。
「な……何者だ!」
「勇者の娘だよ。貴様らの“獲物”さ」
リーファが冷たく笑った。
「そして、俺がその守護者だ」
雷火が炸裂する。
教会地下の“儀式”は、一転して地獄の修羅場へと変わった――。




