神の騎士団 弐
木扉が軋む音と共に、健二がゆっくりと酒場へ戻ってきた。
窓から差し込む夕陽は赤く、喧騒の時間帯にはまだ少し早い。店内はまばらな客と、煮込みの匂いに満ちていた。
奥のテーブル――そこに、リーファとギルが並んで座っている。
卓上には飲みかけのワインと手をつけていないパン。二人とも、健二の姿を見るなり顔を上げた。
「……遅かったな」
ギルが言う。眉根を寄せたまま、椅子の背に腕を組んでいた。
リーファは、少しだけ怯えるように視線を逸らしていた。
健二は無言のまま椅子を引き、二人の向かいに腰を下ろした。
「地下の神殿……いや、地下水路の奥にそれらしき部屋があった。
司祭はそこで数人の騎士と接触してた。おそらく、神の騎士団の一部だ」
リーファの喉がごくりと動いた。
健二は続ける。
「リーファのことを“儀式に捧げる”と言っていた。やつらは――お前を、ただの人間としては見ていない。
女神の血を引いた“遺物”として扱っている」
ギルが舌打ちした。
「やっぱりそうか。……奴らは異端を排除するだけじゃない、“使う”気でいるな」
「……それで、司祭は?」
リーファの声は低く震えていた。健二は一拍置いて答えた。
「戦った。雷火の剣を使った。……全員、殺した」
リーファの目が揺れた。口を開きかけ、しかし何も言わなかった。
代わりにギルが、ふう、と深く息を吐く。
「生け捕りにしたかったんだろ」
「……ああ。だが、雷火解放の力は、殺すには容易すぎる。リーファのように細やかな技は、俺にはまだ無い」
言い終えて、健二は手元のグラスに手を伸ばした。ワインを一口飲み干し、喉を鳴らす。
「分かったのは――司祭すら本部の場所を知らなかったってことだ。
神の騎士団は、もっと根が深い。連中は各地に支部を持ち、本当の中枢は、どこか別の場所にある」
ギルが黙って頷いた。
リーファは膝の上で握った手をそっと解き、震える息を吐いた。
「……私、そんなに狙われてるんだね」
健二はその言葉に、真っ直ぐ応える。
「狙われるだけの力がある。それを証明してきただろ。
だけど、お前はもう一人じゃない。俺とギルがいる」
リーファは少しだけ唇を噛み、そして微かに笑った。
「……うん。ありがとう、健二。ギルも」
その言葉を受けたギルは、少しだけ目を逸らして苦笑する。
「ま、面倒だが放っておく気もないしな。父上も協力してくれるはずだ」
健二は無言でうなずき、グラスをもう一度傾けた。
その味は、先ほどまでよりもずっと、苦かった。




