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神の騎士団 壱

ギルの身分証が奏功し、三人は王都の大聖堂に足を踏み入れた。

厚く積もった赤絨毯、天井のステンドグラスに射し込む光――荘厳を極めた神殿の奥、応接室にて、健二たちは一人の高位司祭と対面した。


だが、その男は終始笑顔を崩さず、ギルの問いにも頑なに口を閉ざした。


「……これ以上は、神の導きがある者にしか話せぬのです」


そう言って、丁寧に会話を打ち切ると、彼は淡々と退出していった。


健二は無言のまま目で合図を送り、ギルとリーファを下がらせる。

「尾ける」と、ただ一言だけ呟き――そのまま神殿を出る司祭の背後を、音もなく追い始めた。



---


【王都地下・旧水路】


夕暮れを過ぎ、街の喧騒が静まりゆく中。

司祭は人気のない路地を抜け、旧い井戸のような出入口から、地下水路へと身を滑り込ませた。


中は湿り気を帯びた石壁。かすかな魔法灯に照らされた道は、下水の名残があるものの、予想以上に整備されている。司祭は慣れた足取りで水路を進み、そのたびに隠された扉や小道を抜けていく。


健二は気配すら殺してその後を追った。目を凝らし、呼吸すら浅く保つ。


そして、曲がりくねった狭路の先に、突如――空間が開けた。



---


【地下の謎の部屋】


広間だった。

水路の構造からは到底考えられない奥行きと天井高を持つ空間。

壁は大理石で飾られ、床には異国風の織物。

銀の燭台に揺れる魔法の火が、やや青みを帯びた光で室内を照らしている。


まるで上層貴族の私室のような空間の中央に、司祭は腰を下ろしていた。


その前には――黒衣の数人の男たち。

一目で尋常の者でないと知れる。彼らの腰に佩かれた細剣、左胸にあしらわれた“十字に貫かれた剣”の紋章――


健二は息を潜めた。


神の騎士団。

噂だけだった存在が、今、目の前に現実として姿を現している。


健二は、その場の空気を殺すように、岩陰で膝をついた。

耳を澄ませ、目を凝らす。――何が話されるのか。誰が、何を動かそうとしているのか。


この場所は、神殿の地下――ではない。

王都の裏にある、“信仰の仮面を被った闇”の中枢に、健二は足を踏み入れてしまったのだ。


岩陰に身を潜める健二の耳に、低く押し殺した会話が届いていた。

黒衣の騎士たちと司祭は、既に何かしらの計画を進行させているようだった。


> 「リーファ……あの娘が生きていたとはな」 「次こそは確実に捕らえる。時間をかけすぎた」 「転生者と女神の血を引く存在――生け捕りにして儀式に捧げねばならん」 「次は東の平原から……」




健二の眉が僅かに動いた。リーファの名を、こいつらは明確に狙っていた。


だが――その時だった。


「……誰かいるな?」


部屋の奥に控えていた一人の騎士が、わずかな違和感に気付いたのだ。

即座に剣を抜く音。何かの結界が張られた気配――健二は迷わず岩陰から跳び出した。


「雷火解放」


低く、静かに唱えた瞬間。

健二の全身を包む稲妻の奔流が、筋肉を強制的に駆動させた。目にも留まらぬ速度で敵の懐に踏み込み、二人の首を一閃で跳ね飛ばす。


「――だが、数が多すぎるな」


瞬く間に残り五人が取り囲む。槍、細剣、そして魔法の準備をする者もいる。


健二は背の長剣を一つ抜いた。


「雷火の剣――解放」


刀身に雷が這い、空間が焼け焦げるような音を立てる。剣と剣が交錯するたび、火花と共に爆ぜる雷鳴。攻撃を受けた騎士の一人は、身に纏っていた鎧ごと吹き飛んだ。


だが、生け捕りにはできなかった。


攻撃のすべてが致命であり、雷火解放の一撃一撃が制御不能なほどの威力を帯びていた。

気がつけば――全員が、事切れていた。


「……しくじったな」


健二は剣を納め、息を整えながら天井を見上げた。

あの密やかな一太刀、急所を正確に突き鎧すら無効化するリーファの技。

あれこそが"人を生かして倒す"技であり、自分のそれは"ただ壊す"だけだ――


そんな苦い思いが胸を過ぎった。



---


【戦後の情報】


残された書類や暗号の断片、そして司祭が持っていた密書からわかったことは以下の通りだった。


司祭はあくまで“実行役”に過ぎない。


神の騎士団は各地に支部を持つ、広範な秘密組織である。


本部の位置は高位の神官ですら知らされていない。


リーファの存在は“聖遺物”扱いされており、彼女の捕縛は騎士団の最優先任務とされている。



健二は文書の束を懐に仕舞い、地下から抜け出す道を選んだ。

街の地表では、リーファとギルがまだ何も知らず酒場で談笑している頃合いだろう。


「……次は、組織の上層を炙り出す」


呟きと共に、雷火を帯びた足取りが、石の階段を静かに昇っていった。


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