取り調べと過去の影
自警団詰所の地下室。
石造りの壁に囲まれた一室に、軋む椅子の音だけが響いていた。
アキレス腱を切られた野盗のひとりが、縄で縛られたまま椅子に座らされている。
その表情には怒りも怯えもなく、ただ、諦めたような乾いた色があった。
対面にはウィリアムと健二。
扉の陰には、静かに立つリーファの姿もあった。
「……いい加減、吐いてもらおうか」
ウィリアムが淡々と言う。
「命までは取らねぇってんなら、喋るだけ喋ってやるよ。どうせ、もう足も使えねぇしな」
野盗の男は乾いた笑みを浮かべた。
「俺たちを雇ったのは“ある男”だ。顔は見てねぇ。
だが、使いの奴が言ってた。“あの銀髪の少女を、生きたまま連れてこい”ってな」
リーファの眉がわずかに動いた。
「……あの?」
健二が低く問い返す。
「ああ。“銀髪の少女”ってのは、一発でわかったよ。珍しいだろ、あんな髪色。
それに、使いの奴は妙に詳しかった。“昔、貴族の家にいた子だ”ってな」
健二とウィリアムが目を合わせた。リーファは微動だにせず立っている。
「その使いの男、何か言ってなかったか? 名前とか、風貌とか」
ウィリアムが食い下がる。
「フードを深く被ってたから顔はわからねぇ。だが──」
野盗は一度、声を止めた。目だけが、じり、とリーファを見た。
「“女神の血を継ぐ娘”だとさ。貴族どころの話じゃねぇ。
だから価値がある。だから、王都の“誰か”が狙ってる」
その言葉に、場の空気が一変した。
「ふざけるな……」健二が低く呟いた。
「俺らはただの下っ端さ。だが、リーファって娘の首には、想像もつかねぇ価値があるらしい。
だからどこにいても見つかる。……そう言ってたぜ、使いの奴は」
沈黙が落ちた。地下室の冷たい空気が、皮膚に刺さるようだった。
しばらくの沈黙の後、ウィリアムが呟くように言った。
「……“女神の血”か」
リーファは黙ったままその場に立ち尽くしていた。
その表情は無表情に見えたが、拳は小さく握られていた。
健二はただ、彼女の横顔を見つめていた。
彼女の過去。彼女の出自。
そのすべてが、これから災厄の扉を開く鍵になるのかもしれなかった。




