表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/93

ゾンビ姫の恐ろしき強さとダル絡み

夜は更け、焚き火の灯が村の中心を赤く染めていた。

村人たちは誰もが浮き足立っていた。

健二とリーファ──二人の英雄の帰還。そして、野盗どもをたった二人で撃退したという武勇。


酒が注がれ、肉が焼かれ、バルドの酒場から持ち込まれた樽の栓が次々と抜かれていく。

どこからか笛が鳴り、歌が流れる。


そんな中、小さな声が祭りの中心に響いた。


「ねえ、健二兄ちゃんとリーファ姉ちゃん、どっちが強いの?」


聞いたのは、かつて朝稽古に参加していた村の子どもだった。

それは純粋な疑問だった。けれど、それが再び、火種となる。


「ふん、今のなら私が強いって見れば分かるでしょ」

「おい、さっきのは譲っただけだぞ。魔法使えば俺の方が──」

「魔法抜きなら、ね?」


言い合いになりかけたところで、ウィリアムが苦笑しつつ割って入った。


「だったら木剣で一本勝負、ってのはどうだ? 酒の前に軽く体を動かすのも悪くねぇ」


それを聞いた村人たちは一斉に湧いた。

見せ物ではない、と健二は眉をひそめたが、既に焚き火の周囲は自然と“闘技場”と化していた。


ウィリアムが付け加える。


「ただし、魔法は禁止な。祭りを吹き飛ばされたらたまらん」


健二は一瞬だけ表情を曇らせたが、頷いた。


「……わかったよ、一本勝負、だな」


二人は静かに木剣を構えた。


――打ち合いは、ほんの数十秒だった。


リーファの木剣が、見事に健二の右肩へ打ち込まれる。

間合い、速度、反応、全てが洗練されていた。

一瞬、風のように動いたその一撃に、誰も声を出せなかった。


健二は苦笑しながら肩を押さえ、潔く木剣を地に落とした。


「……完敗だ」


どこかから、ため息まじりの歓声が上がった。

そして次の瞬間には、祭りの熱気が再び燃え上がる。


だが。


その後、バルドの店で、健二は一人酒をあおっていた。

酒盃を干すたびに、少しずつ目が赤くなっていく。


「勝てない……あいつに魔法無しじゃ、どうやっても……」


ぽつりと呟いた言葉は、まるで誰に向けられたものでもなかった。

けれど、それを聞いていた者がいた。


「魔法は……使えばいいじゃないか。お前は魔法が使える。それでいい」


ウィリアムが隣に腰を下ろし、湯気の立つスープを差し出した。


「お前は火と雷を操る、常識外れの魔法使いだ。無理に“剣士”の土俵で張り合う必要はねぇ。

お前にはお前の“強さ”があるだろう?」


健二はしばしスープを見つめ、それからようやく一口啜った。


熱い。胃が焼けるように熱い。けれど、どこか救われる味だった。


「……ありがとな、ウィリアム」


リーファの勝利。健二の涙。

けれどその夜、村の誰もが知っていた。


この二人がいれば、もう二度と、村は蹂躙されはしない。


そう信じられるだけの強さを、彼らは手に入れていたのだった。


宴も佳境を迎え、人々は火を囲みながら歌い、笑い、酔いしれていた。

その一角、焚き火の光に照らされながら、健二は静かに酒盃を傾けていた。

肩の痛みはもう引いていたが、胸の奥の敗北感はまだ燻っていた。


そこへ、ふらりと現れたのは、酒気を纏ったリーファだった。

顔はほんのり紅く、足取りもいささか覚束ない。


「けーんじ」


「……なんだよ」


健二は少し警戒した声で応じる。酔ったリーファは、稽古場の冷静な剣士ではない。

まるで別人のように、絡み始める。


「また落ち込んでるの? もー、ホントに、しょーがないなあっ」


リーファは腰を下ろすと、隣の健二の肩に遠慮なく寄りかかった。

健二はたじろぎつつも、逃げ場はないと悟って観念する。


「魔法使わないと私に勝てないって、そんなの、わかってるじゃん。何回言わせんの?」


「……だからって、木剣でボコボコにすんのやめろよ」


「ボコボコじゃなくて一本勝負でしょーが。負けたんだよ、け・ん・じ♪」


リーファは満面の笑みで人差し指を突きつけ、勝者の余裕をこれでもかと見せる。


「だいたいさ、健二の戦い方、筋力と魔法頼みすぎ。

剣技の練習、真面目にしてるの? ほんと、雑っていうか、力任せっていうか……」


「うるせえな……お前が変態レベルで器用すぎんだよ」


健二が少し拗ねたように口を尖らせると、リーファはぴたりと口を止め、それから目を丸くした。


「……あっ」


「……あ?」


「……ふくれてる健二、かわいい」


「殺すぞ」


「無理ー。魔法なしじゃ私に勝てなーい♪」


リーファは声を上げて笑いながら、健二の横腹を肘で小突いた。

健二は眉を寄せ、頬を赤らめながら杯を煽る。


「……くそ……調子に乗りやがって……」


「いいじゃん。私も健二も強い。私たち、最強コンビ。ね?」


「……言ったな。今度こそ、一本取ってやるからな」


「そのときは……褒めてあげるよ? うんと、かわいくね」


健二は絶句した。酔っているのか、わざとなのか、それすら分からない。


ただ、焚き火の赤に照らされたリーファの笑顔は、いつもよりどこか柔らかく見えた。

そしてそれが、健二の胸の奥に、少しだけ温かい何かを灯すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ