命だけは…
リューンを発ち、幾つかの街を抜け、ふたりはかつて過ごしたあの村の手前まで戻ってきた。
木々は以前より鬱蒼としていたが、空気の匂いと風の音は懐かしいままだった。
そんなとき、森の陰から数人の男たちが現れた。
粗末な鎧に錆びた剣、目には卑しさが浮かんでいる。
「……金目のもの置いていきな。下手に動けば命はねぇぞ」
健二は一歩前に出ようとする――が、隣でリーファも同じように足を踏み出した。
ふたりの足がぶつかる。
「俺がやる」
「私がやるわ」
「いや、こういうのは男が……」
「その荷物全部背負ってる時点で目立ちすぎなの。戦ったらバレる」
小声での応酬はしばらく続いたが、最後はリーファの「私、今ちょっと試したい技があるの」で決着がついた。
健二は不満げに退いたが、その目は誇らしげだった。
リーファはすっと木の鞘から剣を抜いた。
彼女の動きに、野盗たちはまだ気付いていなかった。
次の瞬間、剣が雷のように走る。
風が一閃。男たちは何が起きたのかも分からぬうちに膝をついた。
「な……足が……!」
全員、アキレス腱を寸分違わず断たれていた。
動脈も骨も避けて、完璧に「無力化」された状態だった。
リーファは剣を払い、静かに鞘へと納める。
「これで、終わり」
そこへ、森の向こうから複数の足音が響いた。
現れたのは、村の自警団――そして、隊を率いるウィリアムだった。
野盗を見て、そしてリーファと健二の姿を見て彼は声を上げる。
「おい! マチオじゃねぇか! ……ってことは、こいつらを?」
「ああ、彼女がやった」
健二が頷きながら指さすと、ウィリアムは目を細めた。
「は……? 彼女? そっちの?」
「そう」
リーファは一歩前に出て軽く会釈した。
ウィリアムは眉をひそめながらじっと彼女を見つめ――やがて驚愕に目を見開いた。
「……う、ウソだろ……リーファ!? 本当にあのちっこかった……?」
彼女の髪は少し短くなり、身長は健二の肩近くまで伸びていた。
剣を握る手は引き締まり、顔立ちには迷いのない静かな意思が宿っている。
「久しぶりね、ウィリアムさん」
その声は昔のままだったが、響きには強さがあった。
「はは……なんだよ、なんだよこれ……お前ら、どこ行ってたんだよ……!」
笑いながら言うウィリアムに、健二も小さく笑った。
「修行だよ。長くて、きついやつだった」
野盗を引き渡しながら、ふたりはようやく村の門をくぐる。
懐かしい景色、懐かしい空気――だが、彼らの背にはもうかつての弱さも迷いも無かった。
こうして、「雷火」と「ゾンビ」は故郷へと帰ってきたのだった。




