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天才と凡才

肋骨の折れた健二は、男爵の邸で静養することになった。

無理をすれば治癒魔法の効果も薄れるとリーファに言われ、大人しく従うしかなかった。


しかし、彼は剣を握らずとも成長を止めはしなかった。

稽古場の片隅に腰掛け、男爵とリーファの立ち合いを毎日見守った。


その光景は、日に日に変化していく。


最初は歯が立たなかったリーファが、しだいに男爵の剣を読み、さばき、反撃を入れられるようになっていった。

やがて三度に一度は、きちんと一本を取れるようになっていた。

そのたびに男爵の目が細められ、わずかに満足そうな笑みを浮かべるのだった。


「……あの子は天性の才を持っている」

男爵がふと洩らした言葉に、健二は小さく頷いた。


しかしそんなリーファにも、悩みがあった。


「ねえ、健二。わたし……やっぱり戦闘中に魔法が使えないの、すごく怖い」

ある夜、稽古終わりの庭で、焚き火を囲んでいた時だった。


リーファの瞳は揺れていた。

詠唱を必要とする彼女の魔法は、剣の戦闘と噛み合わないことが多かった。

一瞬の隙が命取りになる世界で、言葉を紡ぐ時間は致命的なのだ。


「健二みたいに、無詠唱で、すぐに魔法を発動できたら……って、ずっと思ってる」

リーファが言った。


「それは俺だって剣を見て思ってたよ。間合いも反応も、完全に負けてるって」

健二は笑って答えた。


「でも、お前は俺と違って、しっかり才能があるんだ。俺は、こうするしかなかっただけ」

そう言って、健二は指先に小さな雷を走らせた。


互いに、持たざるものを羨んでいた。

だがその夜を境に、ふたりは少しずつ支え合うようになった。


リーファは健二に剣の基礎や間合いの取り方を教え、健二は詠唱の省略や魔力制御の工夫をリーファに伝えた。

寝る前には庭で小さな確認稽古をし、朝は日の出とともに復習を重ねた。


そうして、彼らは知らぬ間に、兄妹のような、相棒のような関係になっていった。


かつて血の匂いと憎しみの中で生きてきた健二。

そして孤独のなかで才能を磨いてきたリーファ。


いま、この地において――

ふたりは初めて、「共に高みを目指す」という道を、確かに歩み始めていた。

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