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鬼の目にも優しさ

ある日、男爵は稽古場で木剣を手に取ると、健二とリーファを見据えて言った。


「今日からは、三人での総当たり試合を始める。稽古は形より実戦だ」


それは、朝と夕に行われる真剣勝負――とはいえ、武器は木剣。だが容赦はない。容赦がないからこそ、意味があった。


初日から、健二は悟った。


男爵には歯が立たない。これは予想通りだ。問題はリーファだった。

以前の彼女なら、力押しで封殺できたはずの相手。だが今や、冷静に間合いを詰め、タイミングを外し、確実に打ち込んでくる。健二は彼女の剣に翻弄され、わずか数合で肩口に一撃をもらった。


「……やるな」

「健二がサボってるだけだよ」


言葉に刺はない。だが誤魔化しもなかった。


夜。男爵に呼ばれた健二は、湯を張った木桶の前で一人腰を下ろしていた。


「お前は、間合いの読みも筋力も申し分ない。だが…今はまだ“考えて斬っている”な。

 リーファは違う。あれは感じて斬っている」


健二は黙って聞いた。男爵の言葉は責めではなく、観察の延長だった。


「だが、考える奴には伸びしろがある。感じる奴は限界を知らんが、考える奴は超えることがある。…面白くなってきた」


その夜、健二はよく眠れなかった。

そして翌朝も、その翌朝も、彼は木剣を取り続けた。


総当たりの稽古は、半年にわたって続いた。

健二は、ただの一度も勝つことができなかった。

だが、逃げなかった。


毎日負けて、悔しさを背中にぶら下げながら、それでも剣を構え続けた。

それが彼の、静かな誇りだった。

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