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リューンの狂犬ライナスと雷火解放

健二とリーファはリューン男爵邸へと足を運んだ。


屋敷は武骨で質実剛健、飾り気のない石造りの建物だったが、内部へ一歩踏み込めば空気が変わる。

客間の壁一面には、ありとあらゆる武具が整然と立てかけられていた。槍、斧、刀、短剣、そして剣──それらはまるで戦場から抜け出してきたかのように実用一辺倒で研ぎ澄まされている。


「好きなものを取れ」


ライナスは一言だけそう告げると、自らは重厚なロングソードを手に取った。柄に巻かれた革は使い込まれ、鍔には傷が刻まれていた。

健二もまた、静かにロングソードを選び取る。自らの炎と雷の剣ではなく、あえてこの場に合わせるように。


ほどなくして、屋敷の奥──道場へ通された。


道場は板張りで広く、天井が高い。日の光が斜めに差し込み、埃がゆらめく。

そこに、健二とライナスが向かい合って立った。


「始めるぞ」


号令も合図もない。ただ二人の間にあるのは、互いを認める者同士の静かな緊張だけだった。


ライナスが動いた。


その剣は重さを感じさせない速さで、健二の首を狙っていた。

紙一重で躱した刹那、次の一撃が腰へ、三撃目が足元を払う。剣筋は正確無比、無駄がない。防御に徹しても、刃の鋭さが骨を穿つように襲いかかってくる。


健二もまた、炎と雷で鍛え上げた肉体を駆使して対抗した。


身体強化魔法──「雷火の陣」を発動。


肌が蒸気を発し、瞳に火花が宿る。踏み込みの一歩で床が軋み、振るわれた剣の一撃には稲妻が纏わりついた。


だが。


斬撃は空を切る。

突きは払い落とされる。

雷よりも速い剣筋に、炎より鋭い技が返ってくる。


「──速さも、力も貴様の方が上だ。だがそれだけだ」


ライナスの声が淡々と響く。


「お前の剣は、まだ“殺し方”を知らん」


その言葉の直後、ロングソードの刃が健二の肩を浅く切り裂いた。

詰めたつもりの間合いを、逆に踏み込まれた。


血が流れる。熱をもって疼く肩を押さえながら、健二は息を荒げた。

まるで自分の攻撃が全て見透かされているかのようだった。


圧倒的な技術の壁──それが健二の前に、剣として立ちはだかっていた。


ライナスの剣が、再び鋭く迫る。

防戦一方の中、健二の肩は裂け、腕は痺れ、視界は次第に滲んでいた。


このままでは勝てない。

このままでは、意味がない。


――俺は、ここで終わってもいい。


健二は一瞬だけ深く息を吸った。


そして、解き放った。


「雷火解放――」


全身を駆け巡る魔力が、もはや制御の範疇を超えて炸裂した。

雷が心臓を叩きつけ、炎が血を沸騰させる。骨が軋み、筋肉が膨張する。


目から、耳から、口から――血が噴き出した。


それでも健二は止まらない。

握った二本の魔法剣。右には轟く雷、左には灼熱の炎。両刃は生き物のように唸り、地を焦がし空を裂いた。


「──まだだ!」


咆哮と共に斬りかかる。速度は限界を超え、踏み込みは地を砕く。

雷が閃き、炎が揺らめく。もはやそれは“技術”ではなかった。“質量と熱と光の暴力”だった。


しかし。


男爵ライナスは、その全てを──避け続けていた。


剣を交えることなく、体捌き一つでかわし、時に紙一重で躱し、健二の斬撃はついぞ一太刀たりとも肉を捉えなかった。


健二の視界は暗くなる。肺が焼け、筋が千切れ、鼓動が耳を裂く。


――削られていく。俺が、俺の身体が、限界を迎える前に、奴を止めなければ。


その瞬間、健二の瞳にわずかな“間”が映った。


足だ。


足元に意識がいった次の瞬間、健二の雷の剣が床板を裂いた。

木片が跳ね、男爵の踏み出しかけた足がわずかに滑る。


「……もらった!」


ライナスのバランスが崩れた刹那、健二は炎の剣を振り抜いた。


その一閃は──男爵のロングソードを、真横から溶断した。


熱と雷光がはじける音が道場を包む。

金属が溶け、刃が折れ、男爵の手から剣が滑り落ちる。


静寂。


次の瞬間、健二は膝を折り、そのまま前のめりに倒れた。


激しい呼吸。耳鳴り。鼻から喉から流れる血。

全身が悲鳴を上げる中、健二の意識は薄れかけていた。


だが――男爵ライナスの声音が、その意識を繋ぎ止めた。


「……よくやった」


その言葉は、まるで“剣士”としての健二を認めるかのように、深く、重く、道場の空気に染み込んでいった。

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