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決闘の前に拳闘

雷と炎の剣を手に、健二は静かに門を叩いた。

場所はリューン男爵の居城。粗末ではあるが、それなりの規模を誇る屋敷の奥に、あの男はいる。


応対に出た老兵が彼を見て目を見開いた。


「お前は……あの時の……」


健二は頷く。

「健二だ。あの時、ライナスに肋を折られた。あれから十ヶ月が経った」


老兵の顔が一瞬、険しくなる。


「まさか、再戦を求めに来たというのか?」


「そうだ。だが今回は、正式に“決闘”として申し込む。俺は剣士として、あの男を超えたい」


老兵はしばし沈黙し、やがてため息混じりに首を振った。


「……相変わらず無茶な若造だ。だが、お前の目は変わったな」


しばらくして、屋敷の奥からライナスが現れた。

黒い上衣を羽織り、獣のような眼を細めてこちらを見ている。


「生きてたか、“雷火の小僧”」

その声に嘲りはない。むしろ、どこか愉しげだった。


「お前を超えるために、血反吐を吐いてきた。今なら言える。俺の剣と魔法は、あんたに届く」


「言うようになったな……ならば、見せてもらおうか」


ライナスは剣を取った。あの日と同じ、細身の両刃剣。

だが、その刃には確かな“重み”があった。


「決闘の立会人はドゥーガンに頼んだ。条件は一つ、俺が倒れても――死ぬまでは止めるな」


健二の言葉に、ドゥーガンは口をへの字に曲げて呟く。


「お前らは本当に、常軌を逸してるぜ……だが、そこが好きだ」


決闘の地は、リューン郊外の古戦場跡。

石と草に囲まれた大地に、雷鳴と焔がまた落ちるだろう。


二人の剣士が、今、再び――相対する。


「だが──まずは拳だ」


ライナスは剣の柄から手を離し、ゆっくりと外套を脱いだ。鍛え抜かれた体躯が、朝靄の中に現れる。


「お前の成長が本物かどうか、この拳で見極めよう」


健二は目を細めた。


「前と同じように殴り合えと?」


「ああ。俺は武器も魔法も使わん。それで、今度こそ倒してみせろ。雷火の拳とやらでな」


挑発のようであり、試練のようでもあった。

だが、そこには確かに“期待”があった。剣士として、拳闘家として、強さを見極める者の眼差しが。


「いいだろう。拳で証明する。前とは違うってな」


健二は上着を脱ぎ、バンテージを締め直した。

リーファが差し出した水をひと口飲み、深く息を吸う。


ドゥーガンがいつの間にか立会いに入っていた。


「手加減なんてするなよ。死人が出ても自己責任だ、そう言ったのはお前らだからな」


彼の宣言と共に、拳闘は始まった。


ライナスの拳は速く、重く、鋭い。

まさに野獣の連打。それは武器に頼らずとも、人を殺せる拳だった。


だが健二も、以前の彼ではなかった。


ボクシングのフットワークで躱し、レスリングのタックルで崩し、柔術の技で極めにいく。

そして、彼独自の「雷火術」の影響で、肉体の一撃には凄まじい威力が宿っていた。


「いいぞ。面白い!」


ライナスの声が唸る。彼は笑っていた。


二人の拳は、何十合も交差し、互いの血と汗を大地に刻む。

健二の身体は既に満身創痍、それでも雷火の鼓動が肉体を支えていた。


そして──ついにその瞬間が訪れる。


「今だっ!」


健二は右のフェイントから、左のリバーブローを腹に叩き込み、ライナスの体勢が一瞬崩れた。


すかさず飛び膝蹴りを顔面へ──


ごつ、と音を立てて、ライナスの身体がよろめく。

そして、地面に膝をついた。


静寂が落ちる。


ライナスは顔を拭い、口の端から血を拭った。


「──本物になったな、雷火の男」


立ち上がったその眼には、初めて“同等の者”を見る視線が宿っていた。


「よし。次は、剣で来い。決闘を受けよう」


健二は、拳を握りしめ、息を整えながら小さく頷いた。


「……必ず、あんたを超える」

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