打倒子爵。健二の修行編 上
リューン男爵――ライナス・グレイとの戦いから数日後。
健二はまだ肋骨の痛みを引きずりながらも、剣術道場に通い続けていた。
だが、あの三日月蹴りの感触が、眠る度に甦る。
圧倒的な速度、精密な角度、そして一切の無駄を削ぎ落とした“力”。
いまのままでは、勝てない。
それは事実だった。
健二は、己に足りないものを考え抜いた。
そして辿り着いた答えが――魔力による肉体強化の極限運用だった。
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【極限強化魔法『雷火解放』】
深夜の訓練場。健二は火の灯らぬ石畳に裸足で立ち、魔力の流れを練り上げていた。
「雷――それは神経を活性化し、心臓を限界まで駆動させる」
「炎――それは血流を促進し、筋繊維の柔軟性と反応速度を最大化する」
ただし、それを同時に全身に行えば――命に関わる。
だが、健二は踏み込んだ。
手のひらに雷を灯し、背中から炎の気配が立ち上る。
「――雷火解放ッ!!」
刹那、蒸気が全身から噴き出した。
皮膚が赤く染まり、汗が瞬時に蒸発していく。髪は逆立ち、雷光がほとばしる。
炎が筋肉をほぐし、雷が内臓を活性化し、健二の身体は獣の如く跳ね上がる。
空気を裂いて踏み出したその一歩。
まさしく、かつてのライナスの踏み込みを――超えていた。
だが、それは一分ももたなかった。
「……ッ、が……っ!」
膝が折れ、吐血し、その場に崩れ落ちる。
リーファがすぐさま駆け寄り、光の魔法を照射する。
だが治癒の光が届くより先に、健二は意識を失っていた。
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【回復後の会話】
数日後、ベッドに寝かされた健二は目を覚ます。
窓の外からはリューンの乾いた風が吹き込んでいた。
「馬鹿なんだから……」
リーファがそう呟きながら、冷えたお粥を差し出す。
健二はかすかに笑って、受け取った。
「けど、見えたよ……ライナスの先が」
「でも、死んだら意味ないでしょ」
「死ぬ気でやらないと、届かないんだよ。あの化け物には」
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健二の修行は、常軌を逸していた。
だがその中で、彼は確かに“常人の域”を超え始めていた。
蒸気と雷を纏うその姿は、やがて人々にこう呼ばれることとなる――
**『雷火の健二』**と。




