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リューンの鉄拳

健二とリーファが辿り着いたのは、噂に違わぬ街だった。


リューン。


城塞都市と呼ぶにはあまりに荒れ、商業都市と呼ぶにはあまりに静まり返っていた。

通りを行き交う者の多くは、剣を腰にぶら下げた冒険者たち。顔に傷を刻み、睨み合うような目をしている。

街路には半壊した石造りの建物が並び、窓からは人目を避けるように視線がのぞく。


「……ずいぶん治安悪そうだな」

健二が苦笑する。リーファもやや顔を曇らせた。


門を越えようとしたその時、二人は呼び止められる。


「ちょっと待て。通行証と……関所通過税をな」


門番の顔は脂ぎっており、目は笑っていなかった。

言外に「賄賂をよこせ」と言っているのは明らかだった。


「通行証は侯爵からの書簡にある。それで十分だろ」


健二が冷静に答えると、門番は鼻で笑った。


「ハワードの犬か? ここはリューン様だ。書類だけじゃ通れん。銀貨十枚。払えねえなら、ほら、そこの娘でも置いてけ」


その瞬間、ガツン!


門番の鼻が音を立てて潰れた。

健二の頭突きだった。見事な直撃。門番は声もなく崩れ落ちる。


「……銀貨十枚ぶん、先払いしといたぞ」

「け、健二……!」


だが直後に、背後から複数の衛兵に囲まれる。


「こいつだ! 門番を襲ったぞ! 拘束しろ!」


リーファが抗議する間もなく、健二は腕を縛られ、街の留置場へと連れて行かれた。



---


夜、牢の扉が音を立てて開く。

そこに現れたのは、巨大な男だった。


ドゥーガン・バロウズ。

筋骨隆々の体躯に、背よりも長い大曲刀を背負う――リューン衛兵隊の隊長である。


「お前が……健二か」

「……どうせ見せしめで斬るってんだろ? せめて一太刀で頼むぜ」


「ふん。気に入った」

ドゥーガンは短く笑い、健二の縄を斬った。


「来い。汚れを落とすのは鉄でなけりゃならん」



---


夜の衛兵詰所。悪徳門番の部屋に、ドゥーガンは無言で踏み込んだ。

その目に、哀れみも怒りもなかった。ただ、冷たい誇りの色が宿っていた。


「ドゥーガン隊長! そ、そいつは! 門で暴れて──」


「口を閉じろ」


一歩。

ドゥーガンが大曲刀を抜く。光の無い鉄の刃が唸りを上げた。


一瞬の閃き。

刃が風を切り、門番の右腕が肩から落ちた。


断末魔の叫びが部屋を揺らしたが、ドゥーガンはそれにも動じず、冷たく言い放った。


「蛮族でも、誇りは捨てん。 お前はそれすら捨てた」


床に血を滴らせながら門番は意識を失い、部屋は静まり返った。


やがてドゥーガンは振り返り、健二に目を向けた。


「よく殴ったな、坊主。……その女、リーファとか言ったか。あの時お前が怒らなければ、俺が代わりにやっていた」


健二はしばらく黙ったまま、その巨漢を見つめた。


「……恩に着る。あんた、まともだな」

「リューンにいるには、時々“まとも”が必要なんだ」


その夜、健二とリーファは、隊長ドゥーガンの取り計らいで街の中央寄りにある宿を紹介されることとなる。


リューンという荒野のような街に、一筋の誇りが残されていた。

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