いざリューンへ
ある朝。剣術道場の一角に、重い空気が流れていた。
「今日の稽古は中止だ。健二と私で一手、真剣勝負をする」
そう言い放ったのは、この道場の師範──ガイウス・ローレント。
かつて王国の近衛を務めたという壮年の剣士で、その風貌と威圧感から「鋼の熊」とも呼ばれていた。
対するは、炎と雷をその身に帯びる異邦の魔導士──健二。
魔法と剣を融合させた戦闘術を極めんと、日々を鍛錬に費やしていた。
「魔法の使用は……構わん。」
「了解」
静かに頷いた健二は、腰の左右に佩いた剣を抜く。
右手に雷の剣、左手に炎の剣──どちらも、魔法で生み出された刃。
ガイウスは鍛え抜かれた大剣を手に、無言の構え。
稽古場に集った弟子たちも、息を飲んで見守る。
激突の号令はなかった。
火花のように、ただ静かに、二人は距離を詰め──
──衝突。
雷が弾け、火花が舞い、地面が裂ける。
ガイウスの重剣は雷の剣をいなすが、炎の刃が横薙ぎに襲う。
健二は剣技の理を知っていた。だが、それはまだ「技術」ではなかった。
それを補うのは──「圧倒的な直感と魔力の制御」。
「──ふっ!」
一歩下がったガイウスの剣が、健二の雷刃を受け止めた──かに見えた瞬間。
ズシィン──
道場の床が鳴る。
雷剣に含まれた振動破砕の魔力が、師範の剣を貫いた。
そこへ、健二の炎剣が鋭く振り下ろされ──
ギィン……ヒュゥ……ッ!
鋼が焼け、師範の大剣が斜めに溶け崩れた。
──沈黙。
そのままガイウスは剣を手放し、手を挙げて降参を示した。
「……一本、取られたな」
「ありがとうございました」
健二は剣を消し、静かに頭を下げた。
道場の空気が一気に緩み、弟子たちがざわつく。
だが、ガイウスはその顔に苦笑を浮かべ、言った。
「──君の剣はまだ未完成だ。だが、完成された者では届かぬ場所に、君は立っている」
そしてその日の夜。
酒を酌み交わしながら、ガイウスはふと語った。
「……リューンという街を知っているか?」
「いや、聞いたこともない」
「そこに、かつての戦で"鬼神"とまで呼ばれた子爵がいる。歳は若いが……私が知る限り、最強だ。剣においてはな」
「面白そうだな。行ってみるか、リーファ」
健二はそう言って酒を煽り、隣で地図を広げていたリーファが頷いた。
「お師匠様が『最強』って言うんだから……間違いないよね。行こう、リューンへ」




