番外編 試験前夜の狂気と信頼
卒業試験を数日後に控えたある夜、健二は突然言い出した。
「なぁ、リーファ。おまえの光魔法、試すには良い方法がある」
「え? また枯れた花? それとも誰かに軽く怪我してもらうとか?」
健二は首を横に振り、無言で腰の炎剣を取り出した。
「──俺の腕、落とす」
リーファは、ぽかんと口を開けた。
「……は?」
「いやな、見せかけとか傷じゃなくて、本当に治癒の真価を証明するならこれしかねぇ。ここで俺の腕を斬り落として、それをお前が治す。完璧に」
「えええええぇぇぇ!? バカなの!? バカなのマチオ!?」
案の定、周囲は騒然となった。
すぐに校長・オルフェン・グランデルも駆けつける。話を聞いて、顔を引きつらせた。
「君は……何を考えているのかね。腕を落として、それを再接合……? 確かに高度な治癒魔法の証明にはなるが……そんな命懸けの試験、聞いたことがない!」
「リーファなら、できる。あの子なら絶対やり遂げる。だから俺が賭けてやりたいんだよ」
健二は本気だった。無謀にも見える提案だったが、その目に狂気はなく、むしろ澄んでいた。
校長は深いため息をつき、しばらく沈黙した後、静かに口を開いた。
「……その心意気は買おう。だが、それは卒業試験ではやってはならん。試験監督が卒倒する」
「ちぇっ。じゃあ今やってもいいか?」
「駄目だ。だが……試験の内容は形式に過ぎない。もし彼女が本当にそこまでのことができるなら──既に、合格には足る」
そう言って、オルフェンはリーファを一瞥した。
「……試験は受けてくれ。だが、無茶な事は……彼女を泣かせないでくれよ」
***
試験の日、健二は腕を斬ることこそしなかったが、控室ではしきりにブツブツとつぶやいていた。
「……せっかくの見せ場だったのになぁ……腕、落とすなら利き腕じゃない方がよかったか? いや、やるなら潔く両腕いっぺんに──」
「マチオ、もう黙ってて!」
と、リーファが泣きそうな声で叫び、場の空気はようやく落ち着いた。
だが、結果としてリーファは、無事に正式な卒業試験で風と光の魔法を成功させ、文句なしの合格を勝ち取った。
その影には、命がけの信頼を預けようとした健二の異常な(?)支えがあったのだ。
そしてその夜、彼らの住まう一軒家のテーブルには、特大の川跳ねフリットと甘い林檎酒が並べられ、健二は得意気に言った。
「……ま、腕切らずに済んで良かったな。けっこう痛いんだ、あれ」
「やったことあるの!?」
リーファのツッコミが夜の邸宅に響いた。




