光、手に宿る
剣術道場に通うようになってから、健二はずっと考えていた。
──自分の戦い方を、魔法と剣でどう融合させるか。
雷の魔力で踏み込み、炎の刃で斬り裂く。
遠距離は魔法、近距離は剣。まるで身体の一部のように、両方を自在に扱えるようになるには、基礎を徹底的に磨くしかない。
この日も、健二は稽古場で重い木刀を握り、師範代との手合わせに臨んでいた。
だが、過負荷だった。
俊敏な踏み込みと重心移動、雷魔法を纏った瞬間の誤差──その一瞬に肩の関節がズレた。
「ッつぁ……!」
鈍い音とともに、健二は木刀を取り落とした。
師範代がすぐに駆け寄ったが、健二は左肩を押さえてうずくまっていた。
「脱臼だな。厄介だ……」
そこへ駆け込んできたのは、リーファだった。
「健二っ! 肩が……!」
「まぁ、大丈夫だ。慣れてはないが、折れてはねぇ」
それでも顔をしかめている彼を見て、リーファはゆっくりと手を伸ばした。
「……やってみる。治すから。私、やってみる」
小さな手が、彼の肩に添えられる。
目を閉じ、深く息を吐くと、彼女の掌に淡い金色の光が灯った。
──《癒光》。
数ヶ月、枯れた花に光を注ぎ続けてきた少女の努力が、いま人に届く時だった。
光は揺らぎ、微細な波動となって関節を包み込む。
健二の筋肉が緩み、肩の軸がゆっくりと定位置へと戻っていった。
「……あ?」
「治った……の?」
健二はそっと腕を上げてみた。
さきほどまで走っていた痛みは、跡形もなく消えていた。
「……ああ。すげぇじゃねぇか、おまえ」
「ふふ……やった……やっと、誰かに使えた……」
リーファは小さく笑い、けれどその頬を一筋の涙が伝っていた。
努力が報われた瞬間だった。
***
それからのリーファは、水を得た魚のように光魔法の習得を進めた。
治癒、浄化、加護──いずれも「誰かのために」という確かな意志が魔力を研ぎ澄ませたのだ。
健二の肩を癒したその翌週、リーファは次々に単位を修得し、実技課題もほぼ満点で突破。
そして学院からは、ついに「卒業試験を受ける資格あり」との通知が届いた。
学院長・オルフェン・グランデルは、柔らかく微笑んだ。
「彼女には、苦手を乗り越えたという実績がある。これは何よりの価値だよ。試験は形式に過ぎない。だが、彼女自身が選んだ道であるならば、しっかりと見届けよう」
そして、春の終わり。
リーファは学院の広場で卒業試験に挑んだ。
彼女の披露した魔法は《風の刃》と《癒光》の連携。
風で運んだ刃が、的を切り裂くと同時に、周囲の空気が優しく輝き、倒れた木人形を癒し立ち上がらせた。
「破壊と癒し。相反するものを両立させたのは、あの年齢では稀有だ。文句なしの合格だな」
校長が手渡した卒業証書を手にしたリーファは、真っ直ぐに健二の方を見た。
「私、やっと肩を並べられたかな」
健二は、腕を組んで少し目を細めた。
「まだまだ背中は見せねぇよ。でも――よくやったな、リーファ」
その日、ハワード邸では小さな卒業祝いが行われた。
健二は手作りの川跳ねのフリットと、甘い酒を用意し、ささやかな乾杯の音頭を取った。
未来は、まだ遠くにあったが。
確かな一歩を、二人はこの日、共に踏み出したのだった。




